「ふだんからお茶の心を暮らしの中に取り入れることはできます」
こう語るのは、茶道をテーマにした大ヒット中の映画『日日是好日』(大森立嗣監督)の原作者・森下典子さん(62)。黒木華演じるヒロインの典子は、茶道を学び、作法を身につけていくなかで、季節の風や雨を味わい五感を研ぎ澄ませ、和の文化の素晴らしさに目覚め成長していく。
師匠の武田先生を9月15日に亡くなった樹木希林さんが演じ、話題を呼んでいる。森下さんは、映画の現場でお茶指導、茶道具や掛軸などのコーディネーターも務めた。
20歳でお茶を始めた森下さん。お茶を通して学んだことを綴った『日日是好日-「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫)は、’02年に単行本出版以来版を重ね、映画化とともに話題を呼び、現在累計46万4,000部を突破。10月に出版された続編『好日日記―季節のように生きる』(PARCO出版)も好評だ。
季節とともに生き、日々が豊かになる方法を森下さんが教えてくれた。
【其の一】四季を味わう
「お茶の魅力は、うつろう季節の中に身を委ねてそれを味わえること。そもそも日本には、変化のはっきりした四季があり、季節を味わうのにちょうどいい緯度に位置していて“地球の特等席”に生きていると思います。雨や風の音も、空気の匂いも季節によってまったく違います。お茶を通して、私は自然と一体化して、四季を感じることがありますが、皆さんもそうした経験はあるのではないでしょうか。見る、聞く、香りを嗅ぐなどして、五感を使って季節を味わいましょう」(森下さん・以下同)
【其の二】人生には思いどおりにならないことがあると受け止める
「四季は人の力では動かせません。災害となる自然の猛威も受け止めるしかありません。日本人の無常観も自然とともに生きてきたことから育まれたのでしょう。自然も人生も、どうあがいても思いどおりにならないことが多い。女性の更年期も、人生の“季節”として受け止めてみる。無理にあらがわず、“季節の風”に身を委ねてるとラクになります」
【其の三】今このときに集中する
「お点前中に、ほかのことを考えていると、『あなた今、心がここにいないわよ』と先生からよく指摘されました。お点前は、体も心もその瞬間に集中していないとできません。仕事が忙しく焦りながらお稽古に行っても、集中してお点前をしていると、気づくと焦りも消えています。みなさんも、何事も今やっていることに集中して取り組むと、雑念もなくなり、抱えているストレスも消えていくでしょう」
【其の四】人生にはすぐに答えがでないことがあると知る
「『日日是好日』という掛軸は、お茶を始めた日から先生の茶室に掲げられていました。夏には暑さを、冬には身の切れるような寒さを味わう。どんな日も、その日を思う存分味わえるのです。今、このときを生きることを喜び、毎日がよい日だと感じられます。でもその深い意味を体感できたのはお茶を始めて約15年後のこと。人生には長い時間をかけて、やっとわかることもあるのだと、教えてくれました。『長い目で、今を生きる』ことは私にとって希望でもありました」
本を読んだり、映画を見たりして、お茶を始めてみたいと思う人も多いだろう。「習わなくても花と和菓子を味わうことで、お茶の心に触れることができますよ」と森下さん。
「お花屋さんに並ぶ花以外にも、路地などに季節ごとに多彩な花が咲いています。昼顔、ヒメジョオン、月見草……不思議と名前を覚えると、その花が見えてきます。知らないと目に入ってこないんです。道端で目に入ったら、少しだけ摘んできてテーブルに飾ってみてください。それだけで家の中に季節が入ってきて豊かさを感じられます」
もうひとつ、冬至、立春など季節を区切った二十四節気ごとに、和菓子に注目してみよう。
「生菓子は基本、豆と餡でできているものが多く、色と形が変わるだけで季節を表します。同じきんとんでも、2月は白とピンクで梅、3月は濃いピンクで桃を、4月は淡いピンクで桜を表します。見て味わいながらその変化で季節を感じましょう。月に1度、飾った花をめでながら季節の生菓子と日本茶を、食後にゆっくり味わってください。お抹茶は数百円から、茶筅も千円台から手に入ります。ご自宅で、今ここにしかない季節に身を委ねて、心も体も癒すことができますよ」
野の花一輪と和菓子とお抹茶で、日日是好日を味わおう!