2018年7月に事実婚を発表し、2019年9月に長男が誕生した、はあちゅうとしみけん。活躍する業界もファン層も違う異色夫婦が、「これ、どうする?」「あれ、どう思ってる?」を赤裸々に語り合う本誌連載「家族会議 議事録」の第12回。はあちゅうが子供を作ることを意識するようになった、もうひとつの背景とは……。
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はあちゅう「私ね、『子供を作ることで、人生を生き直せる』と思ったんだよね」
しみけん「生き直せる?」
はあちゅう「自分の人生はやり直せないけど、子供が目の前で育っていくのを見れば、母のおなかにいるときの記憶が引き出されて、小さいころからの記憶をなぞるような感覚に包まれそうで。うちの親も、私が妊娠しているのを見て、自分の妊娠体験を思い出していたし。そういう意味でも、子供がいなければ体験できないことや感じられないことを、きちんと記録していきたいんだよね。あと、言い方が適切ではないかもしれないけれど、私は『ひとりの人生』にちょっと飽きてた」
しみけん「飽きてた? 人生に?」
はあちゅう「いま33歳だけど、20代後半以降って、いろんなことに既視感を感じて。日々変化はあるけれど、『これ、前にも見た景色だな』って不感症気味になっているところもあって、感動不足だったの。新しいことにも毎年挑戦するけど、何か物足りなさがあって。ここ数年のなかで、自分の人生を大切に思えない瞬間もあった。そのとき、『自分より大切な存在が欲しい』と思ったんだよね。もちろん、これが子供が欲しい理由の全部じゃないけど」
しみけん「僕もAV業界に飛び込むとき、新しくて知らないことだらけで、ワクワクしたよ」
はあちゅう「この間、『あえて結婚しない男子』についての取材を受けたんだ。彼らは、独り身が楽しいからあえて結婚しない。確かに充実してる気持ちはわかるんだけど、私は、同じような楽しさが続く生活に突然飽きたの。それでふと、『この人たちも、いつかこの人生に飽きることはあるんじゃないか?』とか思っちゃったりして」
しみけん「飽きない人もいると思うよ。食欲が飽きないのと一緒。毎日食事してるのに、食欲はどんどん湧いてくるでしょ?飽きない人は、新しい興味の持ち方や楽しみ方がどんどん湧き出す力を持ってる。……っていうのは、結婚前に “修行” で、はあちゅうと一時的に別れてたときにわかった」
はあちゅう「そうかあ。これ、男女の脳の違いにも関わってる気がする。女の人は環境や状況の変化に対して前向きに適応して、自分も変化するけど、男の人ってどっちかというと変わらない。結婚しても子供ができても変わらない生活を望む。それと近い話で、男の人……というかけんちゃんって、レストランでも同じものを食べる傾向にあるよね」
しみけん「それはちょっと違うな(笑)。僕は気に入ったレストランには何回も通って、全メニューを食べるんだ。そのうえで好きなものを絞り込む。じゃないと僕の中では、『そのレストランに行った』ことにはならないから。たった1回行っただけ、しかも人のお金とかで行っておいて『あのレストランに行った』と語るのは嫌。僕は行きまくった結果、特定のメニューに行き着いただけ」
はあちゅう「そうだとしても、『男性は女性よりも保守的な傾向がある』って感じることはあるかも。たとえば、ナポリタンが好きだったら、どの店に行ってもナポリタンを食べ続けたり。けんちゃんだって、どの店に行っても、ボンゴレかトマトソース系を食べるし」
しみけん「それは、たんに味の好みでは……」
はあちゅう「私は、食べたことがないパスタが出てきたら、それを食べたいんだよね。失敗する可能性があっても、食べたことがないものを頼んでみたい。一概に『男は』とか『女は』って言いづらいけど、男女差もちょっとは関係してるんじゃないかな? あと、男の人のほうが行きつけの店を作りがちな気がする。私は、行きつけは作りたくないんだよね。『あ、あの人が来た』って思われたくなくて。お店ではただの客として存在したくて、素性を知られるのが嫌なの」
しみけん「そこは、浅く広くでドヤ顔する人か、深く掘り下げてドヤ顔する人かの違いじゃない?『お前、表面しか見てないのに知ったかぶりしてんじゃねえ』って誰かを攻撃するのは、たいがい深掘り派。どっちがいい、悪いって話じゃないけど、僕は深掘り派だね」
はあちゅう「けんちゃんは、『ザ・男の子脳』だよ。そういう男女差から生まれる断絶って、けっこう深刻でさ。妊娠をしたときから女の人は、刻一刻と心身ともに変化していくけど、男の人は子供が出てくるまで変化しない。そこからもう、男女の断絶は始まってる。私はいまのところ、向こう半年間仕事の予定を入れてないんだよね。仕事ができるほど回復するのがいつなのか、わからないから。けんちゃんなんて、私の入院予定日に『ハンバーガーを食べる会』の予約を入れてたけど(笑)」
しみけん「ハンバーガー、お土産にもらえたら、はあちゅうに持っていこうと思って」
はあちゅう「ありがと(笑)。べつに行ってほしくないわけじゃなくて、純粋にうらやましいなって。男の人は体にダメージがないし、先々の予定も立てられる。そういう点でも、夫婦間には溝が生まれやすいと思う」
しみけん「いままで自分の力でコントロールできていた人生が、コントロールできなくなるのは大きいと思うけど、ひとりの人生に飽きてたはあちゅうだったら、この状況もまた楽しめるんじゃない?」
はあちゅう「どうだろう。『コントロールできないって、こんなにストレスが溜まるんだ』と妊娠中に実感したよ」
しみけん『そのことに気づけたのも財産』
はあちゅう「いずれにしても、『子育てしたお母さんたちは、皆これを経験したんだ』という事実は、自分をすごく謙虚にさせてくれる。結論、お母さんって立派だなあ」
【はあちゅう】
1986年、神奈川県生まれ 慶應大学在学中より、ブロガー活動を開始。会社員経験を経て、2014年、フリーに。ブログ「旦那観察日記」で、夫婦生活を鋭意発信中。
【しみけん】
1979年、千葉県生まれ 1998年にAVデビューし、出演本数は約1万本の現役AV男優。最新刊『しみけん式「超」SEXメソッド』(笠倉出版社)が発売中。
取材&構成・稲田豊史
(週刊FLASH 2019年11月19日号)