■リハーサルでドリフの一員に
’01年に付き人を卒業したが、弟子であることは変わらない。人手が足りないときは、志村さんのもとに駆け付けることもあった。ザ・ドリフターズが『思い出のメロディー』(NHK)に出演したときには、こんなサプライズが。
「生放送だったこともあって、お手伝いに行ったのですが、仲本工事さんが舞台の仕事で遅れるということで、急きょリハーサルで代役を務めることになったんです」
「仲本」と書いたボードを首からぶら下げて、憧れのドリフターズの“一員”になった。
「僕が仲本さんのボケをやると、ツッコミ役の志村さんが激しく蹴ってきたんです。加藤茶さんが『お前、自分の弟子だからそうやってるけど、本番は仲本だからな』と言うと、志村さんはもう一度、僕のことを蹴ってきて」
“自分の弟子だから”という加藤さんの言葉に、それを肯定するようにとんできた志村さんの蹴り。弟子として認められたような気がして、げそ太郎さんはこのうえなく幸せな気持ちになった。
一流のコメディアンとして、芸事に厳しかった志村さん。番組や舞台では怒られてばかりだった。
「『志村魂』で、列車に飛び込んで自殺しようとする志村さんを、駅員の僕が止めるというコントがありました。僕の演技に対して、志村さんは『お前は俺が飛び込んだら、列車も止まる。いろいろな迷惑がかかる。本当にそんな演技でいいのか?』とおっしゃって」
酔っ払い役であれば、この日はなんで飲んだのか、どんな気持ちで酔っぱらったのかなど、キャラクターの背景まで考え抜いて演じていたという志村さん。当然、弟子に要求する水準も高かった。
駅員の芝居はそのレベルに達していないと飲みの席でダメ出しされ、「お前が俺の弟子で恥ずかしいわ」とまで言われてしまった。
「一方で、本当に優しい方でした。『志村魂』の福岡公演で、鹿児島から僕の両親をはじめ、親戚が見に来たときのことです。例のコントで、列車に飛び込もうとする志村さんを止めるやり取りは通常1回だけなんですが、この日、志村さんは何度も列車に飛び込もうとしたんです。戸惑いながら止め続けているうちに、両親や親戚の前で僕の見せ場を作ろうとしてくれていることに気づいて。楽屋に戻った後、涙が止まりませんでした」
舞台の終了後、お礼に行くと、志村さんはニヤリと笑っただけで、何も言わなかったという。
(取材・文:インタビューマン山下)
「女性自身」2021年3月9日号 掲載