87年に日本大学芸術学部を卒業後、同年「キッチン」で月刊文芸誌『海燕』(福武書店)の新人賞を受賞した吉本ばなな氏(写真:共同通信) 画像を見る

住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代にみんながこぞって読んでいた本の話。各界で活躍する同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。

 

「最近、何年かぶりに吉本ばななさんの『キッチン』(’88年出版)を読んでみて、若いころに感じていた繊細さがなくなっていることに気づかされ、つくづく“おばさんになったな”って思いました」

 

ちょっと自嘲気味に語るのは、タレントの新田恵利さん(53)。幼いころから読書が趣味だった。

 

「母親は、お菓子には厳しいけど、マンガを含め、本っていうとすんなり買ってくれました。今でも覚えているのは、自分の体より大きいくらいの『シンデレラ』の本を抱いていたこと。本屋さんも好きで、移動中に時間があれば中に入って、平積みになっている新刊は必ずチェック。『キッチン』を手にしたのも、芸能活動で忙しく、新幹線での移動も多かったころでした」

 

『キッチン』に出合ったのは、芸能界のいいところも悪いところもだんだんと見えてきて、アイドルの人気もぐんっと上がったところから少しずつ落ちていくーーそんなときだった。

 

「いろんなことに敏感になっていた時期に読んだ本です。家族を失って孤独な女子大生が、風変わりな親子との共同生活のなかで変化する細かい心情描写に、泣いたり笑ったりしました」

 

新田恵利 吉本ばなな『キッチン』が忘れさせてくれた現実
画像を見る 読書に現実逃避を求めていたという新田さん

 

『キッチン』の世界観は、現実を忘れさせてくれたという。

 

「今はもうジェンダーは関係ない時代ですけど、当時はまだまだお父さん像・お母さん像っていうのがステレオタイプでありましたから、“元男性の母親”が登場する設定が、とても新鮮でした」

 

同時期に話題になった『サラダ記念日』も思い出に残る一冊だ。

 

「小学校のころから詩を書くのがすごく好きだったし、’90年から3年間ほど芸能活動をやめたときも、作詞家になりたいと思っていたくらい。国語の授業で感じた“俳句とか短歌って難しい”というイメージを、いい意味で壊してくれた本でした。短歌をすごく身近に感じたことを思い出し、一昨年あたりからインスタで自作の短歌を発表しているんです。だから『サラダ記念日』の影響はかなり受けていて、“うふふ”とか“むふふ”という言葉を入れながら、気持ちをシンプルな形にして表現しています」

 

いまでも活字は好きで、自身の経験をもとに、介護をテーマにした本も執筆中だという。

 

「でも、老眼になってからは、集中力が長く持たなくって(笑)」

 

「女性自身」2021年4月20日号 掲載

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