そして治療開始から4年が過ぎ、46歳になったときだった。日本でも有数の実績を誇る不妊治療専門クリニックへの転院を済ませたところで、こんな心情が吐露された。
《これまで顕微授精も複数回試していましたが、うまくいきませんでした。疲れ果てて、夫とも『あきらめよう』と》
当時の心境をこう振り返る。
「体力というより、女性ホルモンの値とか、採れる卵の数が40代半ばに近づくにつれガクンと減ってきて、その数字に限界を突き付けられるんです。
最後と決めた顕微授精での、移植に使わなかった4つの受精卵に染色体異常の有無を検査する着床前診断を受けたところ、異常が認められず問題ないサイズの卵が1つだけあると判明していました。夫とも相談して、『この最後の受精卵が着床しなかったら、治療を終えよう』と決めました。
着床前診断は、ようやく日本でも知られるようになったころでしたが、検査を受けていなかったら、これまで同様に育つ可能性のない受精卵を戻して、またも無駄な時間を費やしていたかもしれません」
こうしているうちに、さらに2年近くが過ぎていた。
「ずっと2人だけで暮らしてきたのだから、そんな生活が、この先も続いていくんだろうな」 夫婦共に、半ば諦めと共にそう考え過ごしていた’20年6月半ばのこと。49歳の誕生日を迎えたばかりの小松さんに、待望の妊娠が告げられる。かつてない、ある確信に満ちた喜びを心から感じていた。
「今度は受精卵の検査もして、しっかり着床するはずの卵なのだから、この先もきっと大丈夫と思えたんです」――。
昨年9月、就任以来、不妊治療への支援を掲げてきた菅首相が、その保険適用を重点政策とすることを表明。小松さんも、日本の不妊を取り巻く状況が劇的に変化しつつあるのを感じている。
「治療も大切ですが、むしろ前段階の、妊娠が可能かどうかを見極める検査の費用を支援してほしいと思うんです。1回1万円の検査でも、積み重なると大きな負担になる。検査によって、おのずと体外受精などの回数も減るし、確率も上がるというのが、私の7年間の体験からの実感です」
当時は、着床前診断も、ネットの海外情報で知ったという小松さん。情報収集し、知恵をつけ、無駄を省くことで、『不妊治療にはお金がかかりすぎる』といった高額費用の問題の解決にもつながる。
そう話した小松さんは、同じ悩みを抱える人のため、情報発信を続けている。
(スタイリスト:佐藤友美/ヘアメーク:市川裕子/衣装:ふりふ/靴:DIANA)