「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第10回/全10回)
「なんか、すごい楽しかった」
“最後の絵画展プロジェクト”のための作品を書き上げて、蛭子さんは晴れ晴れしい表情を見せた。
「こんなに夢中になったのは、競艇を予想していたとき以来ですね……、あ~、最近、競艇場にいっていませんね」
口も滑らかだ。
そこで改めて「蛭子能収の人生相談」連載の担当編集・吉田が、最後の絵画展プロジェクトについて説明をはじめた。
「蛭子さんが絵を描いている姿を見て、本当に、すごく感動しました。ぜひ絵画展をやってみませんか? この調子で作品を描いていけば、きっと素晴らしい絵画展ができますよ。実は今日は、そのプロジェクトの一環と考えて根本敬さんに来てもらったし、蛭子さんに絵を描いてもらったんですよ」
蛭子さんから予想通りの返事が戻って来た。
「絵画展? それはちょっと、面倒くさいですね……」
吉田も引かない。
「絵画展をやれば、入場料などのお金も入ってきますよ。そのお金で競艇にも行けますよ」
それでも蛭子さんの心は揺れない。
「オレの個展なんかしても誰も来ないと思いますよ。それにもう競艇に行く気がしないんですよ。お金をとられるばっかりですから……」
吉田もさらに食い下がる。
「絵画展で絵が売れるかもしれませんよ。さっき根本さんも言っていたじゃないですか。フランスやイギリス、世界中に蛭子さんの絵のファンがいます。もしかしたら100万円、200万円出すという人もいるかもしれない。きっと売れますから、絵を描いていきましょうよ」
蛭子さんの口もとが緩んだ。
「えっ、本当ですか? じゃあ、面倒くさいけど、ちょっとやってみようかな」
汗だくになって説得を続けた吉田はホッと息をついた。
そんなわけで、人を幸せにする、蛭子さんの「最後の絵画展プロジェクト」が、ーー蛭子さん気持ちが「お金」で動いたことはともかくとしてーー本格的に動き出した。(了)