■ある女性の“涙”が人生の分岐点に
武田さんは大学卒業後、一般企業に就職したものの約3年で退社。その後、書道家として歩み出したが、きっかけはある女性の“涙”だった。
「当時、メモを筆で書いていたら、社内で噂が立ってしまったんです。それで、他部署の人たちから頼まれて書くといった機会が増えました。そんな時、ある女性社員から『名前を書いて』と頼まれて。彼女の名前を筆で書いてあげたら、泣いて喜んでくれたんです。
人が僕に感動して涙を流すというのは、それが初めての経験でした。それまで人から褒められたことも感動されたこともなかったので、衝撃的でした。そのような経験をもっと味わいたいと思い、すぐさま会社に辞表を提出してしまいました。結局、6カ月間くらい辞めさせてもらえませんでしたが(笑)」
衝動に駆られ、会社を辞めてしてしまうほどの体験だったと語る武田さん。冒頭のように人生の指針を「楽しむ」にこだわった理由は、若かりし頃の苦い経験が影響していた。
「僕、小・中・高時代が全然楽しくなかったんですよ。勉強や部活など楽しいと思ったことがなくて、しょうがなくやっていた感じでした。辛くて、サボってはずっと逃げ続けていたんですよね。だけど、大学時代は友達もできてすごく楽しかったんです。
でも卒業して会社員になってみると、周囲の愚痴を耳にすることもあり馴染めなかったんです。どうにか楽しもうとしたのですが、昔の辛かった記憶がフラッシュバックしてしまい、できませんでした。通勤途中にお腹が痛くなったり、上司に怒鳴られたり、今思い返すと嫌な思い出ですよね。そんな環境でも楽しめるようにと、メモを筆で書くなど自分なりに工夫はしていたんです」