■父の事業が傾き、家計が苦しくなった小学生のころ
こうしたきょうだいの影響を受けて出合ったアルバムが、大瀧詠一さんの『A LONG VACATION』(’81年)だ。
「生まれて初めて大瀧さんの曲を聴いたのも、兄が部屋で聴いていたから。ダブルカセットのラジカセで、よくダビングさせてもらいましたね。はっぴいえんど(大瀧さんが組んでいたバンド)の時代から兄はファンで、私も『春よ来い』などが好きで。『A LONG VACATION』のおしゃれなジャケットは、今でも部屋のインテリアとして飾っているほど。アルバムに入っている『君は天然色』(’81年)は、イントロを聴くだけで“今から、何かいいことがありそう!”って気持ちになりますよね」
そんな気持ちにさせてくれる音楽が、中学時代のとよたさんの支えになったという。
「小学生のとき、父の事業が傾き、それからは母が一人で3人の子どもを育ててくれたんです。私は小学校から学習院に通わせてもらっていて、学費も大変。母は周囲から『そんな無理をしなくても』と言われていたみたいですが……」
家計が苦しいことは肌で感じていたため、旅行に行きたいとも、洋服が欲しいとも思わなかった。
「よく覚えているのは、ラジカセを持って、当時住んでいたマンションの屋上に上り、緑の多い公園を見下ろしながら、TOTOの『アフリカ』(’82年)を聴いたこと。“未来には希望が待っている”って思えたんです。今でも『アフリカ』を聴くと、当時の切ない気持ちを思い出します」
高校生になると、社会人になった姉が週末、夜遊びに出かける姿を目にするように。大人の世界への憧れも強くした。
「すごく楽しそうなんですよね。酔っ払って、テンションが高い状態で帰ってきて、『六本木のプレステージというディスコに行った』とか、『プールバーに行ってきた』とか、別世界の話をしてくれるわけです」