2002年に開発されたファイル共有ソフト「Winny」。利用者によってはさまざまな個人情報が流出し、逮捕者が出る騒動を巻き起こした。同ソフトを開発した天才プログラマー・金子勇氏の半生を描いた映画『Winny』が3月10日に公開される。
天才プログラマーと呼ばれながら、Winny開発後は多くの時間を裁判に費やすことになった金子氏を演じるのは東出昌大(35)だ。「最初にお話をいただいたとき、Winnyについて詳しくは知らなかった」という彼が、いかにして役に“憑依”していったのか、話を聞いた。
「まずは事件の裁判を担当された弁護士の壇俊光先生や、金子さんのお姉さまにお会いしました。僕が車を運転して金子さんの生家の跡地に行ったのですが、車を走らせていたら、お姉さまが『ここが弟が通っていた電気屋さんよ』と教えてくれたんです。
当時は高価で一般家庭では買えなかったコンピューターに触れるため、幼少期の金子さんは電気屋さんに通っていました。しかし、自宅から電気屋さんは車で30分ほどもかかる距離。プログラミングに夢中になるあまり、自転車でこんなに遠い場所まで通い続けていたという金子少年の行動力に驚きましたし、その純真無垢な気持ちを大切に演じたいなと思いましたね」
金子氏は2004年に著作権法違反幇助の容疑で逮捕。第一審で罰金150万円の有罪判決を受けたがその後控訴し、2011年に最高裁判所で無罪が確定している。しかし、結審から約1年半後に42歳で夭折してしまった。
東出は7年に及ぶ裁判記録を読み、弁護士立ち合いのもと模擬裁判も経験したという。さらに、当時の金子氏像に近づくため18キロもの増量に取り組んだ。
「増量は初めてだったのですが、1カ月で増やしました。基本は米と卵と鶏肉と納豆、そして整腸剤を1日6食です。太るとやっぱり膝を壊すらしく、痛くなっちゃったのですが、この作品を撮り終えた後に違う映画の撮影があったので、2週間で12キロ戻しました。どうやら“逆リバウンド”という現象があるみたいで、急激に太ると、体は急激に痩せたがるんですよね」
金子氏の独特の話し方やキャラクターを再現するため、役作りに当てた1カ月間は、過去の映像などを見ながら四六時中マネをしていたという。
映画では、本編が終わった後に金子氏本人の映像が流れるが、その演出について東出は知らなかったそうだ。
「完成した作品を見て、わっ…!って。でも(本人の)映像を見せる意義はありますよ」
本作では、金子氏の裁判を支えた壇弁護士を三浦貴大(37)が、さらに、刑事裁判のスペシャリストである主任弁護士・秋田真志を吹越満(58)が演じている。
「三浦さんとは撮影に入る前からご飯に行ったり飲みに行ったりして、金子さんと壇先生がそうだったように、一緒にいる時間を大事にしました。2人の時もあれば、壇先生を交えて3人の時もありました。
熱量の高い作品なので、和気藹々とは違うのですが、共演者やスタッフとのコミュニケーションは密でしたね。地方のホテルに泊まり込みだったので、屋上にある露天風呂で吹越さんとご一緒して、人生についてのお話を聞いたりしました。具体的にはお伝え出来ませんが“人生って色々あるよね”って話です」
将来有望なソフト開発者が逮捕されたことで、日本のIT技術の発展は海外に比べて大幅に遅れたとも言われる。
「プログラマーにも旬があるのだそうです。若くて頭が冴えているときにしか画期的なものは作れないとも言われています。金子さんは7年も費やした裁判の間に老兵になってしまったという思いがあって……。切ないですよね。
金子さんは『若いエンジニアの人、これから頑張ってください』と仰っています。自分はこの作品をぜひ若い世代に見てほしいと思っています」