■『I’m proud』の歌詞を自分自身に重ね合わせて
高校時代、下校途中に渋谷に立ち寄ると、自分も含めてアムラーだらけだった。
「用もないのに渋谷に寄って、プリクラを撮ったり、マクドナルドでポテトを食べたり。そして、ほとんど毎日のようにカラオケボックスに行っていました」
必ず歌っていたのは華原朋美の曲だった。
「『I BELIEVE』(’95年)『LOVE BRACE』(’96年)『LOVE IS ALL MUSIC』(’97年)と、何でも歌いましたし、知り合いのお母さんからパート先のドラッグストアにある華原さんのポスターをもらって、部屋のドアに。“こんなにかわいく笑える女のコになりたい”と、部屋に入るたびに思っていました」
もっとも心に残っている曲が『I’m proud』(’96年)だ。
「最初に聴いたのは中3くらいでしたが、カセットテープに録音して、何度も繰り返し聴き続けた曲。メロディも好きですが、私は歌詞をすごく聴き込むタイプ。自分自身に重ね合わせていました。当時は自信がなくて、自分の将来が見えなかった時期。大人になって経験するであろう恋愛や結婚についても、わくわくより不安が。でも、『I’m proud』を聴くと、いつか自分のことを誇れるようになれると思えました。そのためにも、自分が変わらないといけないなって」
最初に考えたのは、これまで経験がなかった“自分を表現すること”だった。
「大好きだったオーディション番組の『ASAYAN』(’95~’02年・テレビ東京系)で、普通の女のコが有名になっていく姿を見ていたので、芸能界が身近に感じられるようになりました」
短大に進学するのか、就職するのか、進路に悩んでいた17歳のとき“自分を変えるために、とにかく、一度チャレンジしてみよう”と、松田聖子や酒井法子が所属していたサンミュージックの新人発掘オーディションに応募した。
「合格したら1年間、歌やお芝居のレッスンを無料で受けられます。結果は不合格でしたが、マネージャーの1人が会社を説得してくれて、おまけ合格のようなものに」
思い切って飛び込んだ芸能界だったが、最初はもちろん何もできない素人。ドラマデビュー作となった『はぐれ刑事純情派』(’88~’09年・テレビ朝日系)では、ウエートレス役も満足にできなかった。
「トレーを持って藤田まことさんにコーヒーを出すというシーンでしたが、緊張しちゃってコーヒーカップを持つ手が震え、中身がこぼれてしまうほど。藤田さんは笑って『大丈夫だよ』と緊張をほぐしてくれましたが……。食レポをしても『おいしい』しか言葉が出ない(笑)。せめておいしそうな顔だったらいいのですが、ガチガチにこわばった顔だから、カメラマンさんも困っていました」
落ち込みながら帰宅する電車の中で聴いていたのも小室ファミリーの曲だった。
「アップテンポのtrfの曲に元気づけてもらい、疲れたときは華原さんのバラードに癒されていました。小室ファミリーの曲に毎日励まされながら仕事を続けていたおかげで、ようやく’02年、『アコム』のCMを機に名前と顔を覚えてもらえるように。自信のなかった私が、ようやくプライドを持てる仕事に巡り合えたんです」
小室哲哉の生み出す音楽は、楽しく踊れるだけではなかったのだ。
【PROFILE】
小野真弓
’81年、千葉県生まれ。女優、グラビアなどで活躍後、’02年にアコムのCMで大ブレーク。癒される笑顔が話題となった。トリマーや動物介護士の資格を持ち、動物の保護活動にも積極的。’19年に木更津の一軒家を購入してからは、愛犬、愛猫と悠々自適な田舎生活を楽しんでいる