5月頃から、屋外で雨に打たれながら、裸足でバレエを躍る少年の動画がソーシャルメディアでで話題となっている。しなやかな肢体と美しい回転に目を奪われるが、彼の周囲を見ると地面は未舗装で泥だらけ。いびつな塀の傍らには空きビンやバケツが積まれている。
彼はナイジェリアの貧困地区にあるバレエ教室「リープ・オブ・ダンス・アカデミー」の生徒、アンソニー・ムメソマ・マドゥくん(11)。同校は独学でバレエを学んだダニエル・アジャラ・オウォセニさんが、貧しい子どもたちにバレエという芸術に触れる機会を持ってもらうため’17年に設立した。レッスンは無料で、運営費はオウォセニさんが貯金を切り崩して賄っているという。
学校のInstagramアカウントでは、子どもたちのレッスンの様子を動画や写真で紹介。マドゥくんの動画も、このアカウントから発信されたものだったが、この1本の動画が彼の人生を大きく変えることとなった。Instagramでは31万回以上再生され、世界中からバレエ用品の寄付や支援金の申し出が多数寄せられた。Twitterでは女優のヴィオラ・デイヴィスが彼のダンスを絶賛。そして、米国で最も有名なバレエスクールから奨学金のオファーも舞い込んできたのだ。
世界最高レベルのバレエ団アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のジャクリーン・ケネディー・オナシス・スクール。芸術監督を務めるシンシア・ハーヴェイは「英国の友達がこのビデオを送ってくれたの。すぐに彼を見つけようと動いたわ」とCincinnati Enquirerに語る。ハーヴェイは、マドゥくんがABTの3週間の集中プログラムに参加できるよう全額奨学金の手配をしたという。また、オウォセニさんも、インストラクションの技術を磨く2週間のトレーニング・カリキュラムへ招待。
ハーヴェイは「これほど熱心な子どもには手を差し伸べるべきです。世界が私たちに教えてくれたことがあるのだとすれば、私たちはあらゆる種類の人を鼓舞し、お互いに多くのことを学ぶべきだということです。ダニエルとアンソニーに機会を提供するのは正しいことだと思います」とコメントした。