■元コメディアンだった経歴との関係は?
コメディアン時代に培った話術やパフォーマンスのスキルが、演説に活かされているのだろうか?
「一般的に大統領はスーツにネクタイ姿が一般的ですが、ゼレンスキー大統領はTシャツなどで会見したり、自撮りで幹部たちと一緒に映ったり、臨場感を感じられる発信はとても上手い印象です。悪い言い方をしたら、役になりきって悲劇のヒーローを演じていると言えなくもありません。支持率も下がっていてすぐに逃げるだろうと思われていたゼレンスキー大統領が、逃げずに勇敢に立ち向かっているという意外性も、多くの人の心を打った理由でしょう。ただし、このように国民を巻き込み、軍事大国ロシアに総力戦で立ち向うことが正しかったかどうかは、このあとの結果を見てみないと現時点では何とも言えません」(川上氏)
それでは、プーチン大統領はどうだろうか。
特別軍事作戦を決定した際、テレビ演説で「ウクライナ政権によって8年間にわたり、虐待や集団虐殺を受けてきた人々を守ることが目的だ」「ウクライナの非軍事化、非ナチス化を目指し、ロシア国民に対して血生臭い罪を犯した者たちを裁く」などと糾弾したプーチン大統領。
その後、軍司令部に核抑止部隊を厳戒態勢にするよう命令。3月5日には欧米諸国などがロシアに対して経済制裁を強化したことについて、「宣戦布告のようなものだ」と牽制した。
その一方で、プーチン大統領は国内の反戦デモを取り締まり、言論統制を開始。主要なSNSへの接続を遮断すると発表し、「虚偽」と見なす情報を拡散した者には刑罰を科せるよう法律までも改正した。
スーツにネクタイ姿で安全な場所にいるプーチン大統領は、軍服を着て危険な場所にいるゼレンスキー大統領とは対照的。発せられるメッセージが威圧的に映る人も少なくないだろう。だが川上氏は、そんなプーチン大統領に“焦り”が見えると指摘する。
「世界から見ると、傲慢で無茶苦茶な論理で戦争を正当化しているにしか見えません。しかしながら、国内では(特にテレビなどのオールドメディアしか見ない層には)、それがむしろプラスに働いているかもしれません。プーチン大統領の誤算は、SNSが浸透していることで昔のような情報統制ができてなかったため、従来のようなプロパンガンダが効いてないということでしょうか。だからこそ、今、法律等を作って情報統制に躍起になっているのだと思います」(川上氏)
ゼレンスキー大統領の演説を機に一刻も早く、ウクライナに、世界に平和が訪れてほしいものだ――。