最近の韓国映画やドラマは、日本語のセリフが登場する作品が多いんです。日本語の学習人口も増えており、劇中の日本語のセリフにも、クオリティの高さとリアリティが求められるようになりました
 と話すのは、ソウル在住の俳優・吉村謙一さん(34)。
 吉村さんは、プロサッカー『横浜フリューゲルス』(現・横浜F・マリノス)出身の元Jリーガー。現役引退後の’02年に渡韓し、韓国で役者デビューを果たした異色の経歴の持ち主だ。その吉村さんには、韓流STARの“日本語教師”というもうひとつの顔がある。
「最近では、6月23日にスタートしたドラマ『夜になれば』で主役を演じる、イ・ドンゴンさん(27)に日本語のレッスンをしました。
 放送初回の舞台は、日本の金沢。日本語のセリフが多いため、彼の所属事務所から直々に依頼を受けたんです
 新ドラマは、国宝探しの騒動がテーマのラブコメディ。ドンゴンは、プレイボーイの古美術学者を演じている。
レッスンは、1日約2時間、3日間の短期集中型で、ソウル・清潭洞のカフェを教室代わりにしていました。
 ドンゴンさんは、演じるキャラクターを綿密に分析するタイプ。初回のレッスンでは、まずキャラクターの解説をじっくりと聞かされ、『それを踏まえたうえで指導してください』と頼まれました

 ドンゴンは、その後わずか3回のレッスンで、ほぼ完璧に日本語のセリフを習得。吉村さんを驚かせたという。
彼の語学センスは抜群でした。長いセリフは、ある程度の日本語を理解していないと、文章の切れ目や、強弱のポイントをつかむのが難しい。
 しかし、彼は短時間でそれをマスターしてしまいました

 レッスン2日目には、共演女優のキム・ソナ(32)も飛び入り参加。ドラマ『私の名前はキム・サムスン』でお馴染みの彼女、実は、中学高校時代を日本で過ごした経験があり、日本語の実力も・韓国芸能界屈指・と言われている。
「すっぴんの彼女がカフェに現れたのは、夜11時過ぎ。
『日本語は得意だけど、イントネーションやアクセントの最終確認をしてほしい』
 と頼まれ、急きょ、3人で台本の読みあわせをしました」
 今でも、ドンゴンに“先生”と呼ばれる吉村さん。
「先生と呼ばれるのは恥ずかしいからやめてほしい(笑)」
 と照れるが、ドラマのなかで交わされる“教え子”の日本語は、『百点満点』の仕上がりだったそうだ。
私は日本ロケに同行しませんでしたが、彼はいつでも口の動きがチェックできるよう、私がセリフを話しているビデオを持参し、勉強していたようです。ドンゴンさんのドラマへの熱意は、同じ役者である私にとっても、よい刺激となり、勉強になりました
 俳優としての吉村さんは、これまで、’02年放送のSBSドラマ『野人時代』や、今年1月に公開された映画『無防備都市』などに出演。着実にキャリアを積んでいる。
「映画『無防備都市』では、主演のソン・イェジンさん(26)の日本語指導も担当しました。こちらは、撮影の合間を縫っての慌ただしいレッスンとなり、私が言ったセリフを、彼女が繰り返し、呪文のように唱える練習方法でした」
 当初、イェジンは、
「男性と女性では言い回しも違うので、女性の日本語教師に教わりたい」と話していたそうだが、吉村さんが役者であると聞いて了承。まずは独学で日本語を学習し、レッスンに備えていたという。
彼女との初対面は朝の4時でした。前日から十数時間に及ぶロケで、疲れもピークに達していたと思いますが、彼女は、それをまったく顔に出さないんです。集中力の高さには驚かされました
 現場には緊張感が張り詰め、
「イェジンさんは、自分のシーンを撮り終えると、すぐに控室に戻ってしまいました。
雑談もいっさいなく、反応が心配でしたが、打ち上げ当日、『教えていただいた日本語が役に立ちました。ありがとうございます!』と声をかけてもらい、一安心しました(笑)」
 吉村さんによれば、韓国での日本語ブームは年々、高まる一方で、「高校や大学で日本語を専攻したり、会社帰りに日本語学校に通う人が増えています」とのこと。
 日本語を学んでいる韓流STARも多いそうだ。

 たとえば、チェ・ジウ(33)は、’06年のドラマ『輪舞曲』の出演を機に、家庭教師をつけて日本語を学習。ドラマ『黄真伊』の主演女優・ハ・ジウォン(29)も、’04年に専属の日本語教師を公募し、現在も学習を続けているという。
 また、7月から日本でも放送開始となるドラマ『オンエアー』に主演、先月PRで来日したばかりのパク・ヨンハ(30)は、韓国の日本語学校で会話を中心に学び、今では、
「フリートークで30分は話せるレベル」(本人談)だそう。
 チャン・ドンゴン(36)は、’02年の日韓合作映画『ロスト・メモリーズ』で日本語に挑戦。共演の仲村トオル(42)が録音したセリフのテープを繰り返し聴き、日常会話ができるまでに上達した。
 新作ドラマ『一枝梅』が好調のイ・ジュンギ(26)は、高校の第2外国語で日本語を専攻。’07年の日韓合作映画『初雪の恋 ヴァージン・スノー』の撮影現場には、自作の日本語ノートを持参。
 宮崎あおい(22)をはじめとする共演者に、積極的に日本語で話しかけていたという。
 日本語ブームに沸く韓国芸能界。同じ役者の目線で日本語指導ができる吉村さんの存在は大きいが、
「私は、ただ日本語指導のお手伝いをしているだけですから、レッスンでは彼らの演技スタイルに立ち入らないよう、細心の注意を払っています」
 とあくまで謙虚だ。現在は、次回出演作に向けて準備中と言う吉村さん。 “和製”韓流STARとして、教え子とともに日本に逆上陸する日を楽しみにしています!

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