■知人の中から犯人を特定する方法
――加害者を捕まえられないなら、むしろ知らない方がいいのではないか。いたずらに知らせて、被害者を苦しめるだけなら、いっそやめた方がいいのかも。
そう悩みながらも、取材の過程で知ったある被害者のケースがずっと心にひっかかっていた。被害者Aの写真はひっきりなしにアップされ、数百枚にも達した。Aは、700人を超える参加者が見物するチャットルームに無防備なまま放り込まれた犠牲者だった。運営者は自らを被害者Aの友人と名乗り、Aの写真と個人情報を流布していた。
――加害者が被害者の近しい知人なら、逮捕できるのではないか。
私たちはそう考え、この事実を被害者に告げることを決めた。被害者のSNSは非公開だったので、連絡先を探すのは難しかったが、代わりに職場が公開されていた。Aの職場に友人だと言って連絡し、返信してもらうよう頼んだ。職場で変な噂が立つかもしれないし、犯人が同僚である可能性もあるので、身元を隠したのだ。
やっとAと連絡がつき、状況を説明した。そして知人凌辱ルームでキャプチャーした合成写真の一部を送り、原本写真をどこにアップしたのか尋ねた。Aは首をかしげた。原本は自分のインスタグラムにアップしたものだが、アカウントは非公開なので少数の知人しか見られないというのだ。知人をセクハラの対象にするルームにあった写真なので、加害者は当然知人のはずだが、Aは知人の中に加害者がいるかもしれないという事実に反射的に抵抗感を覚えたようだった。ネット犯罪の特性上、インターネットに出回ったAの写真を見て、誰か知らない人が「フォロー」申請をし、それを承認した可能性もあるのでは、と聞いてみた。しかしAは絶対にそれはないと言い切った。自分の写真は知人だけが見られるよう徹底していたので、この数年間ネット上に自分の写真が載っているのを見たことはないというのだ。だとすれば、犯人は知人に間違いない。最寄りの警察署に通報することを勧めると、Aはすぐ警察に通報した。案の定、テレグラムの運営者側が捜査に協力しないので令状は発付できないという回答が返ってきた。
しかし、Aはここで終わらなかった。Aは特定のフォロワーにだけ写真を公開する機能を利用して、被疑者の範囲を狭めながら追跡することにした。知人凌辱ルームにはAが10年前に撮った写真までアップされていたので、同級生か、または同級生を通じて知り合った男性に容疑者を絞っていった。まず写真の公開範囲を再び調整し、数人だけが見られるようにした。その写真をアップしてわずか2時間後に、知人凌辱ルームに流布された。さらにフォロワーのグループを分けたあと、特定のグループにだけ新しい写真を公開した。最終的にAは公開範囲を1人ずつに設定し、1枚の写真をアップした。また知人凌辱ルームに、Aが上げたばかりの写真がアップされた。犯人はお前だったのか!
次は警察に通報する番だった。Aは地元の警察署を信頼していなかった。犯人を特定する前、こうした犯罪が起きたと通報したとき、警察に事件を受理してもらえず、差し戻されたためだ。そこで、私たちは江原地方警察庁サイバー捜査隊に通報するよう勧め、Aも私たちを信じてその通りにしてくれた。事件の概要を把握したサイバー捜査隊の回答は、「近隣の警察署に通報するのが原則ではあるが、オンライン上で発生した事件なので、被害者が望めば管轄に関係なく受け付けます」というものだった。警察が確認した結果、Aと私たちが目星を付けていた人物がやはり犯人だった。なんと、彼はAの中学時代の同級生だった。警察は彼の携帯電話からAの合成写真とその他の写真数千枚を確保し、2020年1月、情報通信網利用促進と情報保護等に関する法律に違反(名誉毀損と猥褻物の流布)した疑いで送検した。彼は警察の取り調べに、「昔からAが好きだったが、その気持ちを誤って表現してしまった」と明かした。
男の子が同じクラスの女の子にいじわるをしたとき、「あなたのことが好きだからだよ」と言う大人がいるが、それは間違っている。いじわるは決して愛情表現ではない。誤った愛情表現だって? いや、明白な性犯罪だ。
【PROFILE】
追跡団火花(ついせきだんひばな)
プルとタンからなる匿名の大学生2人で構成された取材チーム。「n番部屋事件」の最初の報道者。記者志望の一環として参加した「真相究明ルポ」コンクールの応募準備のなかで「n番部屋」の存在に気づき、潜入取材を開始。韓国市場最大規模のデジタル性犯罪としてその実態を暴いた。YouTubeやInstagramをはじめとしたSNSでデジタル性犯罪の実態を伝える活動をしている。
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