■五輪のために強行された新ルート
もともと、羽田新ルートは、安倍晋三前首相の肝いりの政策「観光立国」のために、羽田空港の国際便の発着数を増やす目的で構想された。
2018年は住民との「双方向の対話」の時期と位置づけられていたが、今回入手した文書からは〈東京オリンピック開催に間に合わせることを念頭に〉や〈無線誘導の必要上(中略)経路を左右にずらす余地はない〉という結論ありきの本音も見える。
ここまで強引に進められたのは“東京五輪が行われる2020年に外国人観光客4,000万人”という目標を安倍首相が掲げたため。しかし、コロナ禍によって外国人観光客は大きく減り、新ルートは無用のものと化した。コロナが収まった後も、観光客が以前の水準まで回復するかは未知数だ。
「羽田低空飛行見直しのための議員連盟」の事務局長で立憲民主党の松原仁衆議院議員はこう語る。
「新ルート計画は、五輪のために住民の声をまったく無視して、熟議も重ねないまま強引に進められてきました。内閣官房に人事権を握られている省庁は妄信的に政府の指示に従うだけ。これだけ危険性がともなう計画ですから、本来なら省庁間ですりあわせを行い、地域の不安を払拭したり、丁寧に住民の声に耳を傾けたりするべきでした」
今回の文書で、上皇ご夫妻への配慮も欠いていたことも明らかになった。東京新聞2019年5月13日朝刊によると、宮内庁幹部は「皇族邸が羽田新ルートの下にあることは承知している。上皇ご夫妻にはお伝えし、ご理解をいただいた」と話したという。
「そもそも上皇ご夫妻が『けしからん』とおっしゃるわけがありません。国家国民を思われ大変なご尽力をいただいたご夫妻には、静かな環境下で新たな生活を送っていただきたいのですが……」(松原氏)
東京五輪のためなら、住民だけではなく、上皇陛下のご生活や安全にも配慮しない。政府の身勝手さがまた明らかになったようだ。