コロナ禍で迎える3度目の夏を前に、政府内でもにわかに浮上した“マスクを外すべきか否か”の議論。専門医は「今こそ外す決断をする時機にきている」と強く主張するーー。
「人との距離が2メートル以上確保できている場合には、マスクを外すことを推奨している」
“首相の女房役”の松野博一官房長官は、5月12日の記者会見でこのように語った。
そのいっぽう、岸田文雄首相は「今の段階でマスクの着用緩和は現実的ではない」と、同じ日に行われた参議院厚生労働委員会で明言した。
新型コロナウイルスの流行で定着した「マスク習慣」だが、国の方針が揺れている。その背景には、第6波ピークアウト後も下がりきらない新規感染者数がある。
「マスクはコロナ対策としては有効です。とはいえ、すべての人が外出時にマスクを着用する『ユニバーサル・マスキング』をいつまでも続けるわけにはいきません。私は、この7月からはマスクを外すべきだと考えています」
そう語るのは、感染症の専門医で、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫先生だ。
浜松市感染症対策調整監として新型コロナ対策のアドバイスにあたる矢野先生は、元日本感染症学会中日本地方会会長。専門医による“マスクを外すべき”という発言の根拠を聞いてみよう。
「’03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)は、“症状が出た人”がウイルスを伝播させていたため、発症者を隔離することが感染抑制につながりました。いっぽう新型コロナは“無症状の人”も周囲に感染させる特性がある。感染を抑え込むことが困難であり、『ウィズコロナ』と捉えることが前提となります。そのうえで『重症化』を予防することがポイントです」(矢野先生・以下同)
矢野先生は、マスクを外すための重要な条件として“ワクチン3回目接種”“国産のコロナ治療薬の開発”“コロナウイルスの弱毒化”を最初に挙げる。
「3回目のワクチン接種で、重症化予防の高い効果を得られることが明らかになっています。国内でも接種が進んでおり、6月末には希望者への接種が終わりそうです。また、服用しやすいコロナ治療薬もカギ。塩野義製薬が開発中で実用化のめどが立っている『3CLプロテアーゼ阻害薬』も、重症化予防の効果が期待できます。さらに、20世紀初頭に流行したスペインかぜが年月をかけて弱毒化し、現在のインフルエンザの型のひとつになったように、新型コロナにおいても、今後出現する変異株では重症化率が下がる可能性が考えられます」
これら3つの条件が整い、感染しても重症化を防ぐ見通しが立つ7月こそ、逃してはいけないタイミングなのだという。