(写真・神奈川新聞社)
横須賀市米が浜通の老舗料亭「小松」で16日夕に起きた建物火災は、発生から約14時間後の17日朝に鎮火した。市消防局などによると、木造2階建て約1320平方メートルを全焼。創業130年余、軍港のまちの歴史が刻まれた「海軍料亭」の焼失に、市民や元自衛官からも惜しむ声が上がった。
「旧軍港4市(横須賀、呉、佐世保、舞鶴)で現在も残っている旧海軍ゆかりの料亭は小松だけ。本当にショック」。郷土史家の山本詔一さん(66)の落胆は大きい。歴史サークルの仲間が4月、料亭2階の通称「百畳間」で結婚披露宴をしたばかりだった。
4市は4月、文化庁の「日本遺産」に認定されている。旧海軍が鎮守府を置いた横須賀では、東京湾の猿島に残る砲台跡などが構成文化財に含まれている。
山本さんは小松も「構成文化財に入れてもいいと思っていたくらい。室内にあった東郷平八郎や山本五十六ら旧海軍関係者の多くの書はとても貴重。どうなってしまったのか」と気にかける。現時点で出火当時の所蔵品などは明らかにされていない。
昨年8月、料亭の130周年式典に出席し、女性経営者(68)をよく知る男性(53)も「小松は(歴史が)古いから、何とか地域で盛り上げようと話していたところだった」と残念がった。
旧海軍時代に続き、戦後も多くの海上自衛隊関係者に愛された同料亭。海自OBの木下憲司市議(65)は「明治、大正、昭和と続いた激動の歴史の生き証人」と例える。館内を彩る古い写真や掛け軸の数々に歴史の重みを感じたといい、「建物自体が記念碑的なもの。博物館で宴会をしているような感覚だった」と振り返る。
吉田雄人横須賀市長も「海軍のまち、軍港のまちとして発展してきた横須賀の歴史を雄弁に語る存在。市にとっても計り知れない損失」とのコメントを発表した。
警察と消防は18日、合同で実況見分を行い、出火原因の特定を進める方針。