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「みんな、あなたになりたかった」「I am I (私は私)」。一見、相反する言葉の間に一人の女性の姿が映し出される。沖縄県出身の歌手・安室奈美恵さんだ。化粧品メーカーのコーセーが安室さんの引退に際し、これまでの感謝の気持ちを込めて制作した企業CM(コーポレートCM)だ。4月20日から放送され、30~40代の「アムラー世代」を中心に大きな反響を呼んでいる。 (現在はコーセーのHP上で見ることができる。)

 

KOSE NAMIE AMURO CMページ
https://www.youtube.com/channel/UCr2TLOJclgcKGsHua3__-7g

 

冒頭の「みんなあなたになりたかった」との言葉に「そう、そう」とうなずいていたらと思ったらそのわずか数秒後に「I am I」。
真逆とも言える言葉に「一体どっち??」戸惑ったと人も少なくなかったのではないだろうか。

 

最初にこのCM見た時のこの衝撃が忘れられず、今回、コーセーに取材を申し込んだ。

 

「自分らしさを大事にすることの大切さを安室さんという存在が教えてくれた。自分らしく生きる女性を化粧品を通して応援するという企業メッセージを込めた」とコーセーの担当者は語る。

 

コーセーは過去20年、安室さんを起用したCMを制作してきた。安室さんの引退表明を受け、過去の同社出演CM全作品をサイト上で公開するプロジェクトも始めた。

 

CMを通して安室さんと歩んできた20年について同社の北川一也・取締役デジタルマーケティング事業部長兼宣伝部長に話を聞いた。

 

はにかみ屋さんがカメラ前で大きく

 

コーセーは1997年から足かけ20年、安室さんを商品CMに起用してきた。2011年から安室さん出演CMを担当し現場に立ち会ってきた北川さんは安室さんついて「はにかみ屋さんで人見知りという印象だが、カメラの前に立つと存在感が一気に大きくなる」と撮影時の様子を語る。

 

起用当時の90年代はクールな表情を捉えたCMが多いが、2000年代に入り後半は、柔らかな笑顔の作品が増えている。この変化について「〝かっこいい〟安室さんは皆が知っている。(後半のCMでは)〝等身大〟に近い彼女の表情が欲しかった。お化粧は毎日するものだけど、かっこつける事が全てでではない。安室ちゃんもお化粧を楽しんでいるんだ、ということを伝えたかった」と作品を振り返る。

 

「はにかみ屋さん」の安室さんと言われるだけに、北川さんも、安室さんと撮影を通じても日常会話や雑談などを交わすということはとほとんどなかったと言うが「カメラの前で彼女が笑顔になると、撮影を見守る一同にざわめきが起こる。モデルさんの笑顔とはまた違う美しさ。安室さんの笑顔1つ1つは周囲を幸せにする力を持っていると感じる瞬間だった」と語る。

 

”自分らしさ”というメッセージ

 

安室さん出演で多くのCMを作ってきた同社だが「みんな、あなたになりたかった」編は特別な意味を持つ。引退表明後の制作であるだけでなく、これまでのように特定の商品をPRする商品CMではなく、企業の理念や姿勢を伝える「コーポレートCM」と位置づけた。

 

コーセーは2016年に創業70周年を迎えた。時代が変わっても、女性の「キレイになりたい」という変わらぬ思いを化粧品を通して応援するという企業姿勢を踏まえ「自分らしく生きる女性をビューティーを通して支えていく」というメッセージを安室さんを通して表現した。

 

「みんな、あなたになりたかった」とのナレーションではじまり、過去20年の安室さん出演CMの映像が流れ、最後に「あなたは教えてくれた。自分らしく。そう、あなたのように。」との言葉と現在の安室さんの姿が映し出される。そして「Iam I」との文字が映し出される。

真逆の意味のような2つの言葉だが、安室さんを通すと不思議と違和感がない。

 

安室さんに憧れ、メイクや髪型、服装を真似しながら青春時代を過ごした「私たち」。その後社会に出て、もがきながらも自分の人生を歩むまっただ中の今、「私たち」はいつしか彼女の外見だけでなく生き方にもひかれていくようになっていたのだろう。その心理をうまく捉えたCMだったからこそ、違和感がなく、鳥肌が立つような衝撃級の「共感」が芽生えたのかもしれない。

 

「安室さんはいつの時代も安室さんだった。自分の生き方を曲げなかった。つらいこともあっただろうけど信念を曲げずやり続けた。そして私は私で、私らしく去っていく。自分らしさを大切にすることを教えてくれた存在だった」と語る北川さん。引退という決断にもその”らしさ”を感じたという。

 

あえての引き算

 

化粧品会社のCMでは通常、起用するモデルやタレントさんの顔をアップで写すのが主流だ。しかし今回の「みんな、あなたになりたかった」編では、引きの映像、そしてモノクロ(白黒)を基本コンセプトにした。色鮮やかな過去20年のCMとのコントラスト(対照性)を際立たせるという狙いとともに「みんな、あなたになりたかった」「I am I」
という言葉を引き立たせたいとの思いからだ。

 

「担当者としては、あらゆるものをてんこ盛りにしたいという思いもあったし、踊ってもらうという案も上がったが、良い意味で『引き算の美学』に至った。化粧という行為は、女性の内面とリンクする部分もある。だから、見た人が考える、感じるような効果にこだわった」と明かした。

 

予想を超えた反響

 

今回のCMへの反響も担当者の予想を超えるものだった。

 

北川さんは「僕は過去のCMを振り返った部分が話題になると思っていたが、『I am I』など言葉に反応した書き込みがSNS上で多く見られた。生き方や自分の青春に安室さんを重ねて見た人が多くいたのだろう。表層的ではない深い部分で人々を引きつけるものが安室さんには存在するのだとあらためて感じた」と話した。

 

6月22日からは、最後の安室さん出演となる新CMを放送している。

(最新CMはこちらhttps://www.youtube.com/watch?time_continue=5&v=Zblf1UtQggU

 

~この記事を書いた人 ~
仲井間郁江(なかいま・いくえ) 2006年琉球新報社入社。編集局経済部、東京報道部、社会部、政治部などを経て、4月から経営戦略局で琉球新報Style編集などを担当。口を開けば「安室愛」を語る日々。好きな色は「金」。

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