FECの社長で芸人・俳優としても活躍を続ける、山城智二さん(左)。右はナビ芸人の松田正さん(右/よしもとエンタテインメント沖縄 所属) 画像を見る

 

芸人が芸人をインタビューするシリーズ「沖縄芸人ナビ」。芸人さんの本音が聞け素顔が見えると好評です。4月からは、毎週木曜日発行の「週刊レキオ」とも連動。第1週目のレキオ紙面で関連記事が読めるようになりました。記者目線で芸人さんを紹介していますので、ぜひご覧ください。

 

さて、レキオ連動第一弾!!という記念すべき今回、ナビ芸人の「初恋クロマニヨン」松田正(まつだ しょう)さんが、訪ねたのはFECの山城智二さん! 先輩との対談に緊張していた松田さんでしたが、どんな会話になったのでしょうか!?

 

本格的にお笑いを始めたころ僕ら「初恋クロマニヨン」は、FECさんに所属していました。当時は社長として、そして今では大先輩としてお世話になり尊敬している智二さん。思い切って、聞いてみたい事を直撃します!

 

トイレでいたずらする社長

 

松田ナビ:FECさんには僕らもお世話になりましたが、昨年は25周年おめでとうございました! 25周年祭はどうでしたか?

 

山城: 松田がインタビュアーとはびっくり! 十数年前、出会った当初はコミュニケーションが取れない子だったな(笑)。あっという間の25年間でしたが、周年祭で活動を再確認でき、それなりに頑張ってきたと実感できました。

 

松田ナビ:噂によると、智二さんの目に光るものがあったとか・・・!?

 

山城: だからよ~。泣くイメージのなかった俺が、最後のあいさつで・・・。あの日から泣きキャラに変わってしまった(笑)。目の前のお客さん見たら感極まり、ウチナーンチュのみなさんがずっと応援してくれたってグッときました。

 

松田ナビ:ここ2年位で護得久栄昇(ごえく えいしょう)先生はじめ、FEC芸人さんたちは音楽方面の活動を広げましたね。

 

山城:お笑いは面白いことをやる場所。だから何でもありだと思っていたので、タイミング的に状況が整った感じかな。漫才は歌ったり楽器を奏でる祝い芸がもともとの起源だから、音楽とお笑いは切っても切れない相性の良さがあると思っています。

 

松田ナビ:「FECらしい」という言葉をよく聞きます。社長の智二さんにとって、FECらしさとは?

 

山城:褒め言葉であり、逆の意味もあると感じますね。荒々しくて未完成のまま、舞台で面白いものを出す感覚かな!? そこを感じ取っていただいていると思いますし、実際その通り(笑)。
お笑い芸人は最終的に、「何もしなくてもいるだけで面白い」ってなるのが究極。座ってるだけで面白いおじいちゃん、おばあちゃんが沖縄にいるさ~。あれには勝てないな~ってなるよね。漫才やコントも、演じてる人間の面白さから出てこないと、あまり意味がないって思うんだよね。作り物じゃない人間らしさから出てくるもの。ライブで感じられるのは、ナマ物であるお笑い。その時にうごめいているものをどう捉えて観客に出すのか・・・そういったことが、FECは強いのかもしれないね。

 

松田ナビ:人間性を出すのが得意ではない僕は、FECの人たちを見てうらやましく思ったりします。

 

山城:悩むのは分かるけど松田は面白いよ。初恋クロマニヨンは最初に見た十数年前も今も、印象が全く変わっていない。昔から面白かったし、洗練された今もネタの本質は変わっていないと思っています。素から面白いんだよね。昔はあまり会話は交わさなかったけど、尖がっていても面白さビンビンの3人組だと思っていた。三者三様の個性を持つ3人が、学校の先輩後輩関係だったのは奇跡的。地元・読谷という場所で育まれてきた、独特の笑いだと思う。

 

松田ナビ:ありがとうございます。公立高校で出会いました(笑)。智二さんは那覇出身で「ゆうりきや~」さんと幼なじみとか!?

 

山城:そう。不思議な縁で、亡くなった兄貴が結成したファニーズとゆうりきや~は同級生。家も近くて小学校低学年の時に遊んでいたのを覚えている。俺は視力がすごく悪いんだけど、それは力也さんのせい。当時流行ってた「リングにかけろ」という漫画を勧められ、ず~っと読んでいた。それで視力が悪くなったよ!

 

松田ナビ:お兄さんやゆうりきや~さん、周りに面白い人がいっぱいいたんですね。智二さんはお笑いやったりする子どもでしたか?

山城:中学生位まで、流行っていた音楽番組「ザ・ベストテン」のパロディーで遊んでいた。松田聖子とかジュリーの歌マネをカセットテープに録音して兄貴たちと聞いて爆笑。翌日学校でみんなに聞かせた(笑)。

 

松田ナビ:僕もテープに録音して聞かせていました。お笑いやりたい人「あるある」かもしれませんね(笑)。本格的にお笑いを意識したのは、大学生の時ですか?

 

山城:そうだね。兄貴が学校で目立つ存在で、高校の学園祭などの舞台でガンガンにウケているのを見ていました。一応俺も笑わさ~だったけどクラスレベル。舞台に立っても全然ウケないわけさ。なので芸人になるイメージはなかったけれど、兄貴が大学の仲間たちでFECを立ち上げ、学園祭に初参加しました。ダウンタウンさん、ウッチャンナンチャンさんたちに憧れていたから、素養はあったと思うんだよね。でも当時は人を驚かせたくてドッキリみたいなことをやる、ガンマラー(いたずら坊主)って感じ。お笑いの要素として人を驚かせたりワクワクさせるサプライズは、今でも必要だと思うわけさ。

 

松田ナビ: FECの芸人さんたちは、事務所自慢で「社長が芸人だからいい!」と言います。「社長がいまだにトイレでいたずらをしているので(笑)、俺たちはFECらしいことができる」と聞いていますよ。今も心は「やなワラバー(いたずら好きな子ども)」なんですね(笑)。

 

山城:やっていい事ダメな事は、さすがに分かるようにはなってきたけどウズウズする(笑)。テレビ番組などでは、自分が何かやればみんなもやりやすくなるって思うのが3割。後の7割は、自分が楽しみながら現場をかき回したい気持ちです。

 

松田ナビ:それがいいんでしょうね。智二さんがプレーヤーとして動くと、芸人さんはやりやすくなるはずです。

 

山城:その反面、事務所や団体としてちゃんとやってくれよってのいう事があると思う。芸人の気持ちをくみ取り、事務所の根幹に上手に流し込めるようにね。

 

社長の目に映る「お笑い界の現状」

 

松田ナビ:FECを離れて長い僕ら「初恋クロマニヨン」ですが、智二さんはネタを見て「ここが面白かった」とか感想を伝えてくれる事があります。

 

山城:全員に伝えている訳ではない! 本当に面白かったものには、純粋に感想を伝えたいって思うんです。最近の「初恋クロマニヨン」のネタの中では、「100円ショップ」のコントが秀逸。

 

松田ナビ:ありがとうございます! いまだに後輩として見てもらえているのは、めちゃくちゃうれしいです。

 

山城:松田の動向は常に見ていたい(笑)。何かをやっているけど内心は違うこと考えているんだろうな~、次は何をするのかな~と、成長度合いを楽しんでいます。単純に生き物としても面白いしね(笑)。

 

松田ナビ:沖縄のお笑いは盛り上がっている、と最近言われたりします。智二さんから見てどうですか?

 

山城:確かに言われたりするけど、盛り上がっているんだろうか!? 中にいる側からすると、本当の意味ではまだ盛り上がってないよなって思う。

 

松田ナビ:そうですね。夜明け前みたいな感覚。実際に盛り上がっているのなら、ドラゴンエマニエルは解散しなかっただろうと個人的には思います。

 

山城:そうだよね。ドラゴンエマニエルは初恋クロマニヨンを見た時と同じで、デビュー当時と今、印象が全く変わらない。逸材といえるコンビだよね。辞めたいと言われ猛烈に止めたけど、2人の意思を尊重した方がいいと思える瞬間がありました。人生全てに責任を持てる状況でもないからね。結局今月解散しますが大きな損失なので、新しい経験をしてまたお笑いがやりたくなったらウェルカムだな~って思っています。

 

松田ナビ:ドラゴンエマニエルが解散することも、県内お笑い界の現状ですね。

 

山城:事務所としての責任も感じます。実力ある若手が増えていない現実もあり、まだまだ頑張らないといけないよね。解散話はショッキングだから、松田がどうにかできないかな(笑)!? 実際に盛り上がりたいよね。

 

松田ナビ:芸人レベルでたくさんのお客さまを呼ぶ公演など、できるといいなと思います。

 

山城:何かしらの方法は絶対あると思う。別ルートからもアプローチしたくて作った1つが音楽レーベル。ここ最近はみんなが賞レースだけに偏っていると感じ、変な閉塞感があった。競い合って芸を高める賞レースは素晴らしいので挑戦しつつ、お笑いの表現としてもっと多岐に渡っていくべきではないかなって思うわけさ。
沖縄独自のお笑いのあり方や盛り上がり方を作っていきたい。内地とは違うお笑いになると思っているし、芸人それぞれのネタや芸がもっと増え、質が上がった時に沖縄独自のものが出来上がるとイメージしています。

 

松田ナビ:閉塞感は確かにありますし、僕らも見ている方たちもちょっと違和感があるかもしれませんね。

 

山城:若いうちは漫才かコントを極め、年代が変わってきたらやりたい事にチャレンジして、一番フィットする表現を見つけるのがいいと思うな。表現の場や機会は、俺たちの年代で作り上げたいと考えています。

 

松田ナビ:そういう意味ではFECは今、思い描く流れになってきているんじゃないですか!?

 

山城:器作りはいい形で広がっていると思うけど、見合う中身がないと意味がない。同時進行でやらんとね。全てが順調ではなく、護得久栄昇がブレイクしたかと思えば、ドラゴンエマニエルが解散。人生色々、そういう繰り返しだろうからそれに悲観せず、FECという人生の中でいろんな事が繰り広げられていくとイメージしたい。それすら笑いに転化できるように。俺自身芸人としてネタ作りをしたいけど、今は器をどうやって作っていくのかという気持ちの方が大きいな。

 

「枠」の中で発揮される魅力

 

松田ナビ:では役者さんとしての活動は(笑)!?

 

山城:なんだば~。俺をいじってるだろう(笑)。

 

松田ナビ:いじってません! 何を質問するか、めっちゃ考えたんですよ(笑)。「ココロ、オドル」に「クソ野郎と美しき世界」、出演映画を見ています。映画が大好きな智二さんは年間200本位見ると聞いていましたが、なぜそんなに好きですか?

 

山城:多分父ちゃんが好きで、小1の時に国映館に連れて行ってもらって見たのが「キングコング」。真っ暗闇の中でスクリーンにで~じでっかいゴリラがいて、大蛇とけんかしてるのを見てめっちゃ怖かった! 繰り広げられているシーンが恐ろしく、こんな作品を小さな子どもに見せる父ちゃんも恐ろしい。暗闇の恐怖体験がトラウマになり、次に見せられたのが「エレファントマン」っていうおどろおどろしい映画。父ちゃんこんなのよく見せるなって思っていたら、母ちゃんに連れられて見たのが「ヘレンケラー」。怖いか、考え込んでしまう映画ばかり。子どもだったから「なんだば~」っていう感じ。でもこの小学校の体験が、逆に映画にのめり込むきっかけになった。映画はやっぱり面白いので、そこから自分の意思でも見るようになりました。

 

松田ナビ:映画好きから、今は沖縄が舞台の映画の演者になっていますが、どんなモチベーションで臨んでいますか?

 

山城:演じている時は苦しいよ。だってお笑いはもっと自由で、その場の空気でアドリブや抑揚が付けられる。どんなネタでも全く同じ表現にならないのが楽しい。でも役者は与えられたせりふを決めた枠でやるのが基本。だから苦しさを感じる面があるけれど、それがいいのかも!? 芸人の役者がスクリーンに載っかると、抑えられているのが良い演技に見える・・・っていう面があるのかもしれない。

 

松田ナビ:プレーヤーとしての智二さんを、映画のシーンの枠にはめたらちょうどいい位に見える感じ。

 

山城:そう。好き勝手に弾けたら、映画では多分面白くないよね。「アドリブなし、台本通り」と言われて窮屈そうな作品だと思っていたら、計算されたキャラクターで演じて気持ち良かった訳さ。俺が色を付ける必要はないし、与えられたせりふもいいんだよね。監督によってはせりふを変えて構いません、っていうパターンもあり。どちらも面白くて、舞台とスクリーンでは表現が全く違うと勉強になった。沖縄に根差した役どころなら、これからも演じます。

 

松田ナビ:警察官役がめっちゃ多い(笑)!

 

山城:多いよな(笑)! 非常識をやるのが芸人のはずなのに、意味分からん(笑)。

 

松田ナビ:では最後に、FECとして、そして個人としての展望も教えてください。

 

山城:個人ではレーシック手術かな(笑)。目にコンタクトを入れて、レンズのないメガネをかける繰り返しでつらいから。

 

松田ナビ:レーシック手術受けてください。また取材に来ますから(笑)。

 

山城:連絡するさ(笑)。FECとしては自然な流れの中で目標を決めていきたい。ウチナーンチュにもっと喜んでもらえることを考えます!

 

松田ナビ:事務所は違ってもみんなが、ワーって勢い付いている時、「沖縄芸人や沖縄の事務所ってすごい!」って気持ち良くなるんですよ。自分は違う事務所なのに、変な感覚ですよね(笑)。

 

山城:立場はあるけど、みんなで頑張りたいな! 話の中で本音と建前が両方出てくるのが普通ですが、今日はあまり建前が出ずに楽しかったです。若いころは自己防衛から尖った面のあった松田ですが、「俺だからいいやし!」と割り切りながら、むき出しの面白さで突き進んでほしいです。

 

松田ナビ:ありがとうございます! これからもよろしくお願いします。

 

【対談を終えて・・・】

 

☆山城 智二さん☆
松田は深いところで話ができる相手なので、本音多めにいろいろな会話ができました。でも対談するのは不思議な気分でした。

 

☆松田ナビ☆
記事にするためではなく、智二さんの本当の思いが伝わってきて、とてもうれしかったです。

 

【プロフィール】

★山城 智二(やましろ ともじ)

生年月日:1971年7月22日
身長/体重:161cm /65kg
出身地:那覇市
趣味:映画鑑賞(夢は映画監督)
Twitter:@fshgwxin1l0cu7l

 

★松田 正(まつだ しょう)/初恋クロマニヨン

生年月日:1984年8月22日
身長/体重:178cm /70kg
出身地:読谷村
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
Twitter:@hatsukoimatsuda

 

【インフォメーション】

◆FEC芸人総出演ライブ!◆
日時:4月20日(土) 18:00開場/18:30開演
会場:那覇市ぶんかテンブス館4階テンブスホール
料金:前売り1000円 当日1500円(高校生以下半額)
出演:FEC芸人
お問い合わせ:FECオフィス
098-869-9505
公式サイト  http://www.fec.okinawa

 

◆よしもと沖縄若手ネタバトルライブ「よしもと-Uchinah-ランキング」◆
日時:4月12日(金)19:15開場/19:30開演
料金:前売り1000円 当日1200円
内容:沖縄芸人が全組出演!お客様の投票によってランキングが決定します!
会場・お問い合わせ:【よしもと沖縄花月】
那覇市前島3-25-5 とまりんアネックスビル2階 098-943-6244
公式サイト==> http://www.yoshimoto.co.jp/okinawakagetsu/

 

執筆:饒波貴子(フリーライター)

 

饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。

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