観光客を乗せ目的地に向かおうとする「白タク」とみられる車の運転手=3月19日午後、本部町(写真は一部加工しています) 画像を見る

 

「外国人運転手による『白タク』が県内で横行している」。2月、本紙取材班に1通の手紙が届いた。自家用車を使って有償で客を送迎する違法の「白タク」行為が増えているというのだ。2017年、中国人観光客を相手に白タク行為をしたとして中国人の男2人が県警に摘発された。以来、白タクは沈静化したはずだが、実態はどうなのか。取材班は事情に詳しい個人タクシーの運転手と共に白タクを追った。

 

■「知人の代行」

3月19日朝、那覇市を出発した取材班は、白タクによる観光コースの一つ、恩納村の万座毛を訪れた。駐車場係に聞くと「さっきまで2台の白タクが来ていたが、出て行った」という。間に合わなかったか。取材班はもう一つの観光コース、本部町の美ら海水族館に急行した。

 

「あの車は白タクだ。帰ってくるのを待っていたらいい」。タクシー運転手が駐車場に止まっていたレンタカーのワゴン車を指さす。ナンバープレートは「白」だ。しばらくすると、中国人観光客6、7人が戻ってきた。足早に近づき、運転席に座った40代くらいの中国人男性に「白タクをやっているのか」と直撃した。

 

「知人のレンタカーを運転代行しているだけだ。2種免許もある」。男性はそう言い残し、車を急発進させた。2種免許があれば、無許可でもタクシー業ができると考えているのだろうか。タクシー運転手によると、この男性は昨年9月にも別のレンタカーで中国人観光客を送迎する様子が確認されている。

 

水族館から5分ほどの観光名所「備瀬のフクギ並木道」。飲食店前で韓国人家族6人がワンボックスカーから降りてきた。運転席に残った男性を直撃した。

 

男性は40代韓国人。沖縄在住16年で韓国から来県する知り合いを「祖母の車」のワンボックスカーで案内していると説明した。もちろん白ナンバーだ。自身の2種免許証も示しながら、「白タクじゃない。16年も住んでいたら韓国の知り合いが訪ねてくる。ガソリン代程度なら金をもらうことはある」と明かした。

 

■配車アプリ、取り締まり難しく

白タクを追う取材班は、2年前まで県内で白タクをしていた中国人男性と接触した。現在は2種免許を取り、運転代行業に就いている。「白タクより、もうからない」とこぼす。

 

男性が話す「県内白タク事情」はこうだ。男性は沖縄の観光地での送迎を請け負うサイトをネット上に制作して客を募った。多い時期で県内には300人ほど中国人の白タク運転手がいたという。日本で使える国際運転免許証は香港やマカオなどの一部地域を除いて中国人には発行されない。結局、中国人観光客は沖縄で運転することが難しいため白タクを利用する。

 

「沖縄を訪れる中国人観光客は富裕層が多い。沖縄の地理が分からないので、ほとんど言い値で交渉できた」と男性は話す。どれほどの収入があったのか明かさなかったが、魅力的な仕事だったのは間違いない。

 

現在は中国の配車アプリから車を手配し、ネット上で料金決済するのが主流だ。金銭の受け渡しが把握しづらく、警察も取り締まりが難しいとされる。

 

■受け入れ環境に課題も

白タク横行の背景には、急増する中国人観光客の受け入れ環境が整っていない事情もある。たとえば言葉の問題。バスは中国人観光客にとって路線網が複雑な上、多言語案内が広がっていない。中国語を話せるタクシー運転手も限られている。沖縄の公共交通機関の利用は中国人観光客にとってハードルが高いのだ。

 

男性は「白タク業」の経験を踏まえ「違法だけど、母国語で案内されたら、観光客はホスピタリティを感じてくれる。観光客を呼びたいなら法律や制度を考えないといけない。世界では白タクは合法化されている。日本が世界基準から遅れている」と主張した。

 

男性が言う「世界基準」に関する動きが国内でも出ている。安倍晋三首相が3月の未来投資会議で表明した、自家用車を使って有料で観光客を運ぶ「ライドシェア」の活用拡大へ道路運送法を改正する方針だ。公共交通の「空白地」が前提だが、事実上の白タク解禁となる。実現すればタクシー会社にとって脅威だ。

 

県ハイヤー・タクシー協会の東江一成会長は「既存エアラインとLCCのような関係なら受け入れる余地はあるが、法規制がないまま導入すると、安全運行に多大なコストをかけているタクシー事業者のほとんどは倒産する。適正な競争ができる環境を整えて導入してほしい」と訴える。

(当間詩朗、梅田正覚)

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