「国場川にサメがいる。子どもたちが落ちたら危険ではないか」。2日、那覇市の国場川周辺住民からの目撃情報が琉球新報に寄せられた。すぐに記者が現場に向かい、サメの姿を撮影。専門家に確認すると、オオメジロザメの幼魚だと分かった。海にいるはずのサメが、なぜ川に? 危険性や川に来る理由を調べ、川でサメを釣る現場を取材した。
◆学校近くに
「近くに学校や幼稚園もあり、子どもが遊んで落ちると危ないので見てほしい」。那覇市国場の主婦・新垣えりかさんからメールが本紙に届いた。現場に行くと情報のあった場所から約200メートル下流で、背びれを水面に出して尾びれをくねらせ、水面をスーっと切り裂くように泳ぐ魚影を見つけた。
記者が撮影した写真を沖縄美ら島財団総合研究センターの冨田武照研究員に見てもらうと、オオメジロザメの幼魚だと分かった。沖縄美ら海水族館のウェブサイト「美ら海生き物図鑑」には、「人にとって最も危険なサメの一種」と書かれている。冨田研究員は「オオメジロザメの成魚は危険性があるが、沖縄の川で見つかった記録はない。幼魚は全長1メートル程度で、川に進入するが、幼魚が人を襲うことはほとんどない」と話す。
◆海釣りの魚種が
冨田研究員によると、本島南部、那覇市周辺の海に近い川で、河口付近にサメの幼魚が生息しているという。西表島では川を数キロさかのぼることもある。クロダイ(チヌ)やロウニンアジなど海釣りで人気の魚種がいることもある。しかし、サメが川に来る理由はよく分からないという。
2000年ごろから川でサメ釣りをしている安里川ファンクラブの高嶺太一さん(39)は「川は餌が豊富で、サメの幼魚を食べる大型の天敵がいないのではないか」と出現の要因を分析する。安里川の水質が改善し、生息する魚が増えてサメが見られるようになったとも話す。しかしあくまで経験による推測だ。
◆釣りでかまれる事例も
沖縄の川で、サメと出合うチャンスは珍しくはない。会員制交流サイト(SNS)を見ると、釣り上げたサメの写真を載せている人もいる。
実際にサメ釣りの現場を取材した。同行させてもらったのは、2000年ごろから川でサメ釣りをしている安里川ファンクラブの高嶺太一さん(39)と、釣り漫画家の草野ほうきさん(35)=静岡県。
現場はゆいレール牧志駅のすぐ下、国際通り近くの安里川だ。4日午後6時半、まだ周囲が明るい中、観光客を横目に釣りを始めた。水面にはボラの群れ、2匹のサメも確認できた。
開始早々、サメは体をくねらせ、餌を見つけている様子。だが、なかなか食い付かない。次第に辺りが暗くなってきた。仕掛けを変え、当たりを待っていると同8時ごろ、竿(さお)が大きく曲がった。糸を川底に引き込み、体をぶるんぶるんと振りながら抵抗する。格闘の末、約70センチあるオオメジロザメの幼魚が上がってきた。幼魚とは言え、体の輪郭や黄色く光る目、鋭い歯はまぎれもなくサメの姿だ。
高嶺さんは「こんな街中で海にいるサメが釣れる」と興奮気味に話す。一方で「首を振ってかまれるとけがをする。小さくても怖く、危険がある」と語る。
高嶺さんによると、国場川で釣ったサメにかまれ、けがをしたケースもあるという。幼魚でも鋭い歯は変わらず、安全面の注意が重要だと訴える。
沖縄美ら島財団総合研究センターの冨田武照研究員によると、沖縄の陸水域(河川など陸に囲まれた水域)には700種近い魚類が確認されており、その半数は「偶発的に進入した海産種」と説明する。
しかし、サメを研究する専門家にも、なぜ川に来るのか、明確な理由は分からない。
冨田研究員は「釣りでサメが掛かることもまれにある。かまれると大けがをするので、注意してほしい」と呼び掛ける。専門家や熟練の釣り人は、サメの怖さにも詳しかった。
(大橋弘基)