第5回 泣かせる庭 東福寺 重森三玲の庭

投稿日: 2015年02月03日 07:00 JST

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京都は庭園の宝庫。しかし、たくさんありすぎて、どこを優先的に見て回ればいいか迷う人も多いだろう。本連載では、京都のガーデンデザイナーであり、京都の庭園ツアーも主催する著者が、景観の素晴らしい庭園から、いるだけで心癒される穴場庭園まで、行って絶対損はない庭園を案内する。近場にあるオススメの立ち寄りスポットも併せてご紹介。


著者:烏賀陽 百合(ウガヤ ユリ)

imageガーデンデザイナー。庭、ベランダ、花壇のデザインやコンサルタント。ガーデニング教室の講師。京都の庭園ツアー
<プロフィール>
京都生まれ、京都育ち。同志社大学文学部日本文化史卒業。兵庫県立淡路景観園芸学校、園芸本課程卒業。カナダ・ナイアガラ園芸学校で園芸、デザインなど3年間勉強。ナイアガラ植物園の維持管理も行う。イギリス・キューガーデン付属のウェークハースト庭園にてインターンシップを経験。現在京都を拠点に庭のデザインやカウンセリング、マンションのベランダや小さな庭でもできるガーデニングを指導。気軽に植物を楽しめ、生活の中に取り込めるガーデニングを提案している。また東京、名古屋、京都、大阪などでガーデニング教室の講師を務める。現在、東京・南青山のカフェOVE、目白台運動公園、鎌倉のNaivy Yard、京都の町家ギャラリーniterashinkaなどで定期的に教室を行っている。UR都市機構の団地にて住民交流のためのガーデニング教室も開催。これまで24ヶ国を旅し、世界中の庭を見てまわる。庭にまつわるエピソードやその国の文化・歴史をブログ「庭園小噺」にて紹介(http://ugayagarden.blogspot.com/)。また友人とEpic Kyotoというユニットを立ち上げ、京都の美しい庭園や美味しいお店をfacebookで紹介。京都の庭園ツアーも行っている(Facebook→Epic Kyoto)。 


★昭和を代表する作庭家が渾身の力と情熱を注いだ庭

庭を見て泣いたことはあるだろうか?

感動したり、幸せな気分になることはあるが、私はまだ泣いたことがない。

 

外国の人に庭を案内して今まで2人、庭を見て泣いた人がいた。

それは偶然にも同じ庭。京都、東福寺の北庭、切石と苔の市松模様が美しい「小市松の庭」だ。

 

庭を見て泣いた1人は52歳のイギリス人女性。

 

彼女は2人の子供を育てあげ、これからという時に旦那が店の従業員の女性と浮気し家出、そして離婚。その後子宮摘出の大手術を受け、回復後50歳からカナダの園芸学校に入学してガーデニングを学んだという経歴の持ち主。いつも大らかで、いかにも「よく喋るイギリスのおばちゃん」といった彼女が、この庭を見たとたん、その場でポロポロ泣き始めた。

 

なぜ泣いているのか尋ねると、

「この庭を見た時、今までの自分の人生は何も間違ってない、と言われたような気がして。そしたら心がスーっと軽くなって、泣いてしまったの……」。

 

もう一人は47歳のデンマーク人の女性。

 

彼女は独身でとてもスタイリッシュな女性。40を過ぎてから再び大学院に通い、一生懸命勉強して子供のためのセラピストになった。お父さんを早くに亡くし、お母さんをずっと支えて生きてきた人だ。

 

彼女もやはりこの庭を見てポロポロと泣き始めた。理由はやはり、

「肩の荷が降りたような気分になったの。今までの苦労が報われた気がして……」。

 

50年という人生の半分以上を生き、酸いも甘いも知った年齢だからこそわかる気持ちなのかもしれない。

「苦しみ」や「悲しみ」という経験の果てに「美しいものをより深く理解できる心」が備わるのなら、年を重ねて辛いことに耐える力を備えていくことも悪くない。

 

人を泣かせるこの東福寺の庭は、1939年に重森三玲(しげもり みれい)という昭和を代表する作庭家によって造られた。

この時、三玲は43歳。自邸以外でデザインした初の作品。この歳で初めての作庭とはかなり遅咲きである。

 

彼は若い時に美術大学に入り日本画を学んだ。26歳の時に文化大学院なるものを創設しようとしたが、関東大震災によって断念。30代で新興いけばなを広めようとしたが、家元制度の壁が厚く、うまくいかなかった。

 

しかし、38歳の時に室戸台風により京都の庭園が荒廃。復元修理のため、40歳の時に日本各地の庭園の実測調査を自ら始める。この調査費捻出のため奥さんは自宅で下宿屋を始め、経済的に彼を支えた。(この前年に生まれた赤子も含め、その時彼には4人の子供がいた!)

 

実測した庭園はなんと500ヶ所以上。そして26巻から成る「日本庭園史図鑑」を刊行する。

結果それが縁となって東福寺の和尚から作庭を頼まれ、これが彼の代表作となった。

その後200以上の庭をデザインすることになるのだが、決して最初から順風満帆とは言えない、紆余曲折ある人生だった。

 

彼は晩年「ついに東福寺の庭を超えられなかった」と語っている。この東福寺の庭に彼の渾身の力と情熱を全て注いだのだろう。だからこそ今の時代においても、苦労して自分の道を歩んで来た人を「泣かせる庭」なのかもしれない。

 

70年経っても、その「気持ち」は庭を通して伝わるのである。

 

★東福寺の庭

東福寺は臨済宗東福寺派の本山で鎌倉時代に建立された。

 

東福寺本坊の方丈を囲んだ4つの庭園は全て重森三玲のデザイン。東福寺方丈「八相の庭」という名称だったが、2014年に国指定名勝に登録されたことで「国指定名勝 東福寺本坊庭園」と改名した。

 

ここでまず目に入るのは廊下の右手に現れる東庭。ひしゃくの形に配置された7個の円柱の石は北斗七星を表す。高低差をつけた二重の生垣は天の川を表し、なんともロマンチックな庭になっている。

 

しかしこの円柱の石は、もともと東司(とうす:お手洗いのこと)に使われていたもの。禅僧はひしゃく1杯の水で身や心を清める、ということからひしゃくをテーマにしたという。こういったところに重森三玲の遊び心のセンスを感じる。

 

方丈庭園はダイナミックな石組が見所。6mもする石を寝かせ、荒い表情の石を立たせることで、他の庭にはない大胆な景色を生んでいる。神仙思想という不老不死の仙人が住む世界を表しており、荒波の中そびえ立つ蓬莱山の様子が見事に表現されている。

 

重森はよくモダンで前衛的な作庭家と思われがちだが、500以上の庭園を実測した経験から、どの距離が1番美しく見えるか、全てデータとして知っていた。彼のデザインは、こうした実測データと庭園を見て周った経験に基づいている。そしてそれは先人たちが作った庭へのリスペクトの表れでもある。

 

そして人を泣かせる北庭の「小市松の庭園」。切石と苔の緑のコントラストが美しく、遠くにいくほど石は少しずつフェードアウトしていく。仏教が西に生まれ東に広まる様を表した、また紅葉したもみじが苔に散らばる景色が好きだった三玲がその様子を表した、とも言われる。

 

切石はもともと勅使門から方丈まで敷き詰められていたものを再利用されており、古い物を使うことで先人の記憶を庭に託した彼の思いを感じる。

 

切石が仄かに消えていくバランスが、ため息が出るほど美しい。市松模様が少しずつ解き放たれていくその配置は何度見てもウットリとさせられる。絶妙な距離感を知り尽くした三玲にしかできない、素晴らしいデザインだ。

 

私はまだこの庭を見て泣いたことがない。まだまだ人生の経験に乏しく、その境地に至っていない。しかしいつかこの庭を見て、自分の人生を振り返り、清々しい涙を流してみたいと思っている。


オススメのカフェ:小西いも

東福寺から徒歩15分ほどで伏見稲荷大社に着く。その途中にあるおいも屋さん。

焼きいもや蒸しいももあるが、一番のお勧めは大学いもの様な厚切りのおいも。普通の大学いものようにバリバリした表面ではなく、甘くサラサラした蜜がかかっている。というよりも、おいもが蜜に浸っている。

厚切り具合も蜜の加減もちょうどよく、ホクホクしていてペロリと食べてしまう。ここでおいもを買って歩きながら食べ食べ、お稲荷さんの千本鳥居をくぐるのも楽しい。

伏見稲荷大社は2014年、トリップアドバイザーの京都で訪れたい観光地ナンバーワン選ばれたという。外国の人には、赤い鳥居が並ぶ光景は異国情緒に溢れていて、まさにザ・ジャパン!なのだろう。

住所:京都府京都市伏見区深草稲荷榎木橋町30
電話:075-641-5629
営業時間:9:30~18:00
定休日:不定休
ホームページ:http://tabelog.com/kyoto/A2601/A260601/26003592/


■東福寺http://www.tofukuji.jp/

摂政九條道家が聖一国師を開山として菩提寺建立を発願、1236(嘉禎2)年4月2日(鎌倉時代)19年の歳月をかけて1255年(建長7)に七堂伽藍を完成した。五山の一つ。

「東福の伽藍面(がらんづら)」とまでいわれ壮観を極めたのが、度重なる兵火と1881年(明治14)の失火で仏殿、法堂、庫裏などを焼失、以後、逐次再建してきた。

禅宗伽藍を代表する室町最古の三門(国宝)をはじめ、浴室、東司(便所)禅堂(いずれも重文)など室町時代の禅僧の生活を知る上で貴重な建築が残る。

境内の通天橋は紅葉の名所。方丈の周囲に枯山水の庭園をめぐらせる。

絹本着色無準師範像(国宝)など5000点を超える文化財を所蔵。

同じ境内にある「龍吟庵国宝方丈」は現存最古の方丈建築。

重森三玲が作庭した「龍の庭」は、龍が海中から黒雲に包まれ昇天する姿を石組で表現している。3月10日まで特別公開中。

 

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