「競歩は素人の私ですが、雄介のフォームにかんしては、調子いいのか、悪いのか、見ればすぐにわかります。あの日は、すごくフォームもよくて“速い”と感じました」

 

3月15日、陸上競技(五輪、世界選手権種目)で、1時間16分36秒と日本人男子として50年ぶりに世界記録を更新するという快挙を成し遂げた、20キロ競歩の鈴木雄介選手(27・富士通)。母親の恵子さん(59)が、喜びの表情で語ってくれた。

 

「雄介は3人兄弟の末っ子。わが家のマスコットで、主人も私も『元気でかわいい存在であってくれれば、それで十分』と思って育てていました」(恵子さん・以下同)

 

生活の中心は、8歳年上の長男に合わせたもの。家事に育児に追われた恵子さんは、末っ子の鈴木選手に十分、手をかけることはできなかった。そのぶん、たくましく育ったようだ。

 

「“外弁慶”という言葉があるのかわかりませんが、家ではおとなしいんですが、外ではすごく活発な子でした。小6で応援団長をやったときも、家の中の雄介しか見ていない私は驚きました」

 

陸上競技を始めたのは、小3から。次男が陸上教室に入った影響からだった。中学で所属した陸上部で、1千500メートルや3千メートル走の練習の一環ではじめた競歩が、その後の鈴木選手の人生を変えた。

 

競歩の才能はすぐに花開く。中3のとき、3千メートル、5千メートルで中学生記録を更新した。競歩での成績もよくなったとたん、勉強もできるようになり、本人の希望で進学校の県立小松高校に入学。県予選を勝ち上がり、活躍の場を全国に広げていった。

 

「“この子はいつ落ち込むんだろう”と思うくらい、ポジティブ。あえて『オリンピックに出たい』と強気な発言をして、目の前の目標をクリアしていくタイプですが、心が強いと感心します」

 

その言葉どおり、ついにはロンドン五輪に出場(’12年)。’13年、’14年の日本選手権では連覇を果たした。”外弁慶”にもますます磨きがかかっているようだ。世界記録を更新した直後も「今年から3つの世界大会で金メダルを取る」と、鈴木選手のモチベーションは依然として高く、早くも「リオ五輪で金メダルを」という声も出ている。その姿を、恵子さんはおだやかに見守っている。

 

「お正月に、東郷神社で勝ち守りを買って、雄介のために祈ります。願い事ですか?口に出すとかなわなくなりそうなので、言えません(笑)」

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