(写真:アフロ)

「あの子は復帰してよかったと思います。試合後の笑顔を見てしみじみと感じました」

 

高橋大輔(32)の母・清登さん(68)は、勤め先の理髪店で本誌記者にそう語った――。

 

昨年7月、5年ぶりのフィギュアスケート現役復帰を表明した高橋。「自分のなかで納得してから次に行かなければならない」と語った彼が掲げた目標は、「全日本選手権の最終グループに残ること」。その言葉は、これ以上ない形で現実となった。12月の全日本選手権で、宇野昌磨(21)に続く2位に輝いたのだ! 5年ぶりの復帰、32歳の挑戦。決して簡単なことではなかっただろう。それでも奇跡を起こした原動力とは、何だったのか。清登さんはこう語る。

 

「引退前は支援してくれる人のためにも結果を出さなければならないという思いが強く、プレッシャーに押しつぶされそうにもなっていました。しかし今回は“自分にとってフィギュアスケートとは何か”と見つめなおすためにリンクに立った。そうしたら、すごく楽しかったみたいで。やっぱりフィギュアはあの子の“原点”。それを再認識できたようです」

 

その原点には、常に母がいた。金銭的に豊かではなかった高橋家。フィギュアを続けられるよう、母は理髪店で働きながら支え続けた。だからこそ、これまで息子の試合を見に行く機会には恵まれなかったという。そんな母が、今年11月の西日本選手権で初めて試合会場を訪れていた。清登さんは当時の秘話をこう明かす。

 

「張り詰めた空気のなか真剣な表情の息子を、初めて目の当たりにしました。あの子は今までこんなところでやっていたのかと肌で感じてね。もう感動しました。ショートプログラム後、5分ほど話をしました。その日は、私の68歳になる誕生日だったんです。そうしたら、あの子が『おめでとう』と言ってくれて。私が『明日も頑張ってくれるのが何よりの誕生日プレゼントになるよ』と伝えると、『うん、頑張る』と返してくれました」

 

一度でいいから試合で滑っている姿を見せてあげたい。その“約束”を果たすべく、高橋は奮起していたのだ。

 

だが全日本選手権の後、高橋は3月に行われる世界選手権への出場辞退を発表。理由について、「日本のスケートが盛り上がっていくには、若い選手が大舞台を経験する必要がある」と説明している。たしかに今大会3位となった田中刑事(24)は同じ倉敷市出身の後輩。後進育成を考えたのだろう。だが辞退の理由はそれだけではなかった。清登さんが続ける。

 

「刑事くんのお母さんも大事な大会の前に、この理髪店を訪ねてくるんです。息子は五輪前もいろいろアドバイスをしていたみたいでね。お母さんは『大輔さんに教えてもらってだいぶよくなりました』と言っていました。そりゃあ親としては正直、世界選手権に出てほしい。でも、あの子だったら辞退するだろうなとも予想していました。だってあの子も初めての世界選手権に出たころは、先輩の本田武史さんや田村岳斗さんにいろいろ教えてもらって成長できたんです。だから自分も同じようにしたいという思いが強いみたいです」

 

世界選手権は辞退したものの、現役続投を宣言した高橋。母は「あの子は、負けず嫌いなところがありますから。納得のいく演技ができるまで引退したくないんでしょうね」と語る。そんな話をしていると、テレビに全日本選手権のVTRが流れた。

 

「始まる前の表情、キリっとしているでしょ? これはいけると思ったんです。でも……」

 

そう語る母は、最初の4回転ジャンプを失敗したシーンで「あ~、3回転」とため息。その後も「手をついた」「転んだ」と指摘。最後によろめくと「ここは何回見ても笑ってしまう」と苦笑する。それでも、「表現力の部分の得点は良かったみたい」とフォローする母。そしてステップのシーンでは、声のトーンが上がった。

 

「私ね、ここが好き。このダンスみたいな部分が大好きなんです」