その重要な試合に、コーチと連絡を取り合っていないというのはどういうことなのか。前出のフィギュア関係者が続ける。
「所属するカナダのクラブの関係者も、“結弦は一人で全日本選手権に挑むつもりなのか?”と首をかしげていたそうなんです」
そもそも、今度の全日本選手権は、羽生以外にも海外を練習拠点にする選手たちにとっては“コーチを帯同できるのか”という悩みがついてまわっているという。
「国の要請により、海外からの入国後2週間いわゆる“自主隔離期間”が必要になりますから、来日のハードルが高いんです。たとえば、アイスダンスで出場する高橋大輔(34)も“コーチがアメリカから来日できない”とこぼしています。リモートで指導を受けているそうです」
しかし、羽生選手からオーサーコーチへは、前出のように“特に連絡がきていない”というのだから、また別の理由がありそうだ。
「その話を聞いたのは12月上旬。オーサーをはじめとする羽生選手のコーチ陣がその直後にカナダを出国していたら全日本選手権に間に合うかもしれませんが、そういった話は入っていませんね」
試合でコーチが不在の場合、選手にはどのような影響があるのか。フィギュアスケート評論家の佐野稔さんに伺うと……。
「コーチというのは選手にとって鏡のようなものです。実際の鏡を見ながら滑ることはできないので、コーチの目を通して自分を見ます。ジャンプのタイミングの早い、遅いや、カーブの角度などを微妙に調整するのがコーチだと思います。羽生選手の場合、いなくても調整できるかもしれませんが、いたほうが融通がきく。心理的にもいたほうが心強いと思います」(佐野さん)
そんな不利な“コーチ不在”状態を羽生があえて選んでいたとしたらーー。彼の心境はどのようなものなのか。別のフィギュア関係者は、今年度の「特殊な状況が羽生選手の独立心を高めているのでは」と話す。
「そもそもオーサーコーチは、“結弦は日本にいるときは僕にあまり連絡してこないんだ”と言っていたことがあります。夏時点では、“コロナ禍で自国からカナダに戻れない教え子にはリモートで指導をしているけれど、羽生とはしていない”とも言っていました。
さらに羽生選手自身も、コロナ禍で日本で一人で練習を続けていた状況を《今まで自分が多くの先生に習ってきたことを考え直しながら練習できる時間にはなっている》とインタビューで言っていました。数カ月、自力で練習をしてきたぶん、試合も自力で試してみようということかもしれません」