「ゆづの世代のスケート選手はみんな、彼の存在に引っ張られて頑張ってきたところはありますね。僕自身も練習をしていて技の調子が悪いと、“こうしているうちにも、ゆづはきっとまた新しい技を習得する努力をしている。差が開いていっちゃう”と自分にプレッシャーをかけながらやってきました」
羽生結弦(26)について、本誌の取材にそう話してくれたのは日野龍樹さん(26)。今年の3月をもってフィギュアスケートの現役を引退し、この7月からは会社員として勤めるという日野さんは、羽生と同年齢だ。
「初めてゆづと話したのは小学校4年生のとき。合宿で一緒になったんです。明るくて元気でよくしゃべる、という印象でした」
以来17年、同期として切磋琢磨してきた“戦友”で“同志”だ。
日野さんが教えてくれた’16年のNHK杯のときのエピソードからは、孤高に闘っているようにも見える羽生も、仲間が大好きであることが伝わってくる。この試合は田中刑事選手(26)も加えた同期3人がそろって出場。
「シニアのカテゴリーで、3人そろって国際大会に出られるのは初めてだったんです。そんな日が来たことがうれしかったですが、いちばんうれしそうだったのがゆづ。大会期間中、更衣室でゆづがリラックスして過ごしているのを見たんです。国際大会ですし、もっと近寄りがたいオーラを放っているかと思っていたので意外でした。
でも、あとから人に聞いたら『ゆづはいつもはあんなにリラックスしてないよ』と。同期3人がそろったので、それを彼なりに楽しんでいたのかなと思います。試合後も会場の通路で、ゆづがニヤニヤして歩いてきたので『なんだよ』と言ったら『単純にうれしいんだよ』って。照れますよね、そんなこと言われたら。それだけでも出られてよかったし、3人で出られたことが感慨深かったです」
羽生と直近で顔を合わせたのは、昨年末の全日本選手権だという。
「コロナ対策を徹底していて話はそんなにできなかったんです。でも、フリーのグループ練習で僕がリンクから上がろうとした際、リンクに入ってきたゆづとすれ違って。目が合ったときに『おはよ!』って先に言ってくれました。昔と変わらなくてうれしいですよね」
引退にあたり仲間から寄せ書きを贈られたというが、羽生からも“はなむけの言葉”があったそう。
「ゆづは『知り合ってから何年もたつし、お互い変わっただろうけど、根っこの部分は何も変わらないんだろうね』というようなことを書いてくれて。それともうひとつ、『ここまで一緒にやってこれてよかった』という言葉も。ジワーッときましたね。子供のときからのことを思い出しちゃいますよね」
引退した立場から羽生に対して思うことを聞くと――。
「“先にやめてごめんね”という気持ちと、逆に“僕の分もよろしく頼む”という気持ちがあります。これまでどおりずっと応援しているということを伝えたいです。昔から同期3人で一緒に旅行に行きたいと話していて。いつか一緒に温泉にでも行けたらいいですね。ゆづがいちばん元気ですから、旅行に行ってもいちばん元気で過ごすのだろうなと思います」
引退した同志への思いも大切にしながら、今日もきっと羽生は“練習”に励んでいることだろう。