高まる習近平氏への忠誠心、審判への厚遇…専門家語る北京五輪で「不可解判定」連発の理由
画像を見る 中国選手にコースを遮られたと語った高木菜那(写真:アフロ)

 

■専門家も「審判の忖度もあったと感じた」

 

スノーボード男子スロープスタイルでは、主審がカナダ人選手の減点行為を見逃してしまったことで、中国人選手が金メダルを取りそこねたというケースもあった。

 

だが全体的な傾向としてはアメリカや日本など“西側諸国の選手”が不利な裁定を受け、中国やロシアの“旧東側諸国の選手”が恩恵を受けるというケースが目立っているという印象だという。

 

スポーツライターの小林信也さんはこう語る。

 

「特にショートトラックなどは、中国にとっても数少ない“勝てる競技”ですので、かなり審判の忖度もあったと感じました」

 

中国の選手たちの勝利への執念もすさまじいようで、ショートトラック女子500メートルでは中国人選手がコースの境界を示すブロックを押し出し、そのブロックでバランスを崩したカナダ人選手が転倒するという珍事まで起こった。

 

中国ルポライターの安田峰俊さんは、

 

「中国はスポーツに関しては、かつては、わりと真面目に向き合っていたのですが、習近平体制になってからは、その姿勢も変化しているように思います。

 

北京五輪開幕前には、天安門広場に選手団が集まって出陣式を行いました。『(習近平)総書記に続き、ともに未来へ!』などと叫んでいましたが、これは国家指導者個人への忠誠を誓っているわけで、毛沢東時代以来のことです。スポーツに対する政治の影響力が強まっていることは間違いありません。

 

選手や運営関係者も、スポーツ大会では本来守るべき国際マナーやルールよりも、習近平国家主席への忠誠心のほうを優先してしまっているのではないでしょうか」

 

ルールよりも“習近平氏への貢献”が重要視される傾向が見られるということのようだが、忖度しているのは中国の選手や運営関係者ばかりではないという。

 

前出の小林さんが続ける。

 

「スポーツは本来アバウトな部分もあるものなのに、勝ち負けだけが重視され、とてもギスギスした五輪になっていると感じます。選手たちの勝つ以外に生きる道がないという勝利至上主義が行きつくところまで来てしまい、さらに五輪の運営に関わる人たちの商業主義もあいまって、手に負えない状況になっていることがあからさまになった大会だと思います。

 

先ほど述べた、外国人審判たちの、開催国への忖度はどこの国でもあることです。昨年の東京五輪でも、開催地が日本だったからメダルが取れたのではないかというケースもありました。ただ中国では、そうした傾向が強まっているという面はあるでしょう」

 

なぜ中国では審判たちの忖度が強まるのか。中国情勢に詳しい国際ジャーナリストの近藤大介さんは次のように解説する。

 

「疑惑の判定は、中国が外国人の審判に対して、手厚い処遇をしていることと関係があるかもしれません。中国流の“もてなし”としては、ホテルの部屋にプレゼントが置いてあったり、人間ドックを無料でサービスするなどがありますね。手厚いサービスが直接的に“中国びいきの判定”につながるとは言い切れませんが、審判たちが中国に好印象を抱くことは間違いないと思います。

 

そして習近平政権は、メダル獲得を3段階でとらえています。(1)愛国心を高め、(2)愛党心を高め、(3)愛習心(※習は習近平の習)を高める。メダル獲得への執着が、疑惑の判定へとつながっているように思います」

 

開催国・中国の意図がどこにあるにせよ、これ以上アスリートたちが置き去りにされる五輪であってはならない。

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