■深夜の猛特訓、満身創痍のリハーサル
これまでも幾度となくケガを乗り越え、満身創痍ながらも夢に向かって挑戦してきた羽生。そんな奮闘ぶりを本誌も見てきた。
’20年9月上旬の深夜0時、地元・宮城県仙台市にあるリンクに入っていった羽生を目撃。ここは彼が’12年にカナダに渡る前に、練習拠点にしていた“原点”とも言える場所。さらに’11年3月11日、羽生はここで練習中に被災し、その後壊れた建物の再建のため、多額の寄付もしている。
黒いスポーツウエアの上下に黒のキャップを目深にかぶり、顔にはマスク。トートバッグを手にした彼は、慣れた様子でためらいなく建物のなかへと入っていた。それからちょうど1時間後、羽生の父親と姉らしき女性、羽生本人、そして最後は母親の順番で出てきた。車に乗り込んだ一家が帰っていったのは、深夜1時すぎのことだった。
この“深夜の猛特訓”は翌日も行われた。前日と同じように家族で訪れ、羽生の服装もほぼ同じことから習慣化しているようにも見えた。
また今年5月27日に開幕したアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」の数日前にも羽生を目撃。ショーのリハーサルだったのか、千葉県内のリンクから出てきた羽生は、運転手の男性にお辞儀をしながら送迎のワゴン車に乗り込んだ。
礼儀正しさは相変わらずだが、その姿は以前よりほっそりと痩せたように見え、やや疲れた顔が印象的だった。乗り込んだワゴン車には母親も同乗し、スタッフも乗せてリンクを去っていったのだった。
ショー前日に放送されたテレビ朝日のインタビューで、長年挑んできた4Aについて聞かれた羽生はこう話していた。
「自分がフィギュアスケートをやっているなかでの熱量の根源みたいなものなので、ずっと目指していけたらいいなと思います」
変わらぬその思いを抱きながら、いま新境地へと羽ばたこうとしている。