■「あの時、あのような経験をしたから今がある」
教頭によると、実際に前田が活動停止した期間は1年生時の4月~12月。2カ月ほどパン店で修業をさせ、6月からは地元のサッカークラブで練習をさせたという。
「部活動は停止中だったんですが、やっぱり鈍らせるわけにはいかないので、保護者会の方々が協力してくださって練習をさせました。サッカー部としては懲らしめるというよりも、見守るという立場ですね。パン店で修業させたり別のサッカークラブで練習させたり、保護者会やスタッフたちと連携を取りながら見守って育てるという方針で対応してきました」
そして年が明けた1月に復帰した前田は、目の色が変わったように練習に励んでいたという。
「彼はしっかり反省したようで、今では『あの時、あのような経験をしたから今がある』といった発言も、当時の監督にしているそうです。技術的には凄いものを持っていたけど、幼さもあって足りない部分だったということでしょうね。あの経験が、後の精神的な部分で大きく影響したのではないでしょうか」
なお、からかわれた部員は退部するといったこともなく、卒業まで前田たちと一緒にボールを蹴って切磋琢磨したという。3年生時に出場したプリンスリーグ関東では12得点を挙げて得点王に輝いた前田。当時のインタビューでは、「両親をはじめ、これまで関わって下さった全ての方に感謝し、恩返しができるよう頑張ります」と語っていた。
そんな彼について、最後に教頭はこう期待を込めた。
「色んな人から聞くのですが、前田は誤解されやすいタイプのようですね。見た目がやや強面なのもありますが、言葉数が少なく、言い訳などをしないからだといいます。周囲がやったことを自分が被ってしまうような。でも、そういう部分もありますが、根は良い子なんです。ですので、これからもしっかり頑張ってほしいです」
温かい目で育ててくれた母校に、きっと前田も感謝をしていることだろう。