日本人最年長金メダリスト杉浦佳子さん 快挙までの裏側「パラの選手は…」心ない声が耳に入ったことも
画像を見る パリパラリンピックの自転車競技女子個人ロードレース金メダリスト・杉浦佳子さん(撮影:五十川満)

 

■「これからも自転車に乗り続けながら、多くの人に助けてもらってきた恩返しを」

 

「最近、よく耳にする『超高齢社会』という言葉からは、明るい未来は想像しがたいと思いますが、障害や老化にあらがう姿を見て、希望を持ってもらえたら」

 

10月8日に行われた文部科学省による五輪・パラリンピック表彰式で、女子やり投金メダリストの北口榛花選手(26)らと共に登壇した杉浦さんはそう語った。

 

パリ大会後も、表彰式や講演など多忙な日々を送っているが、自転車に乗っていないときも「常に全速前進」の母親について、長女(22)は語る。

 

「私が10代のころ、母が早起きして分刻みで家事をこなしてジムに通う姿を見て、『なんでそんなに頑張れるの』と聞いたことがありました。

 

そしたらひと言、『楽しいから』って。なるほど、好きなことは頑張れるんだと、子供心にとても納得できたんです。

 

事故後に自転車競技を始めてからも、本当に多くの方が母をサポートしてくださっているのを見ていて、私は『食べることの面で人を支えられるのはすごい』と考えるようになって、管理栄養士の道を選びました」

 

杉浦さん自身は、私生活では’18年に離婚し、現在は一人暮らし。

 

「夫とはかつてはトライアスロンの大会などにも一緒に出たりしていましたが、互いの自立した老後を考えて離婚しました。子供たちの親という関係は以前と変わることなく、今も家族の行事があると、ジジとババで一緒に2人の孫と会ったりしています。

 

あと、若いママたちにぜひ伝えたいのは、子育てにはどんどん周囲を巻き込んで、ということ。私も多くの人にずいぶん助けられましたから、今度は社会にお返ししたいと考えています」

 

4年後のロサンゼルス大会については「未定」と語るが、

 

「自転車は生涯、乗り続けたいですし、天職と思う薬剤師の仕事もまた始めたい」

 

すでに40代で、薬学の知識を生かしてアスリートをサポートする“スポーツファーマシスト”の資格も取得している。

 

「ドーピングチェック一つとっても、私は検査を受ける側を体験したという点で、薬剤師のなかでは希有な存在でもあります。そういった経歴を生かせる場面もあると思うんです。日本では、女性が年を取るとマイナスに捉える風潮もあります。でも、薬剤師をしていたとき、50代60代の先輩が患者さんにとても信頼されている姿を見て、本当に素敵だったし、憧れてもいました。

 

それを思い出すと、金メダルを取ったあと『最年長』と年齢のことばかり言われることに抵抗もありましたが、今は素直に喜び、励みにできるようになりました」

 

8年後のブリスベン大会は還暦を迎えた後となる。世界を見渡せば、オリンピック全体ではさらに高齢の金メダリストもいる。ナイス・グランマのさらなる挑戦を見守りたい。

 

(取材・文:堀ノ内雅一)

 

次ページ >【写真あり】レースで見せる表情はポジティブ全開

【関連画像】

関連カテゴリー: