(写真・神奈川新聞社)
ヘイトスピーチ解消法で許されないものとされる「不当な差別的言動」ついて法務省が昨年末にまとめた基本的な考え方の詳細が9日、分かった。どのような言動が該当するかは背景や文脈、趣旨を「総合的に考慮して判断」する必要があるとした上で典型例を挙げている。ヘイトデモ・街宣が多発している川崎市や東京都中央区、大阪市など全国13自治体に示した。
昨年6月の解消法施行後、同省人権擁護局内に新設されたヘイトスピーチ対策プロジェクトチームが作成した解消法に関する「参考情報」に盛り込まれ、12月27日に各自治体へ送付された。
解消法が定義している差別的言動を(1)危害の告知など脅迫的言動、(2)著しい侮辱、(3)地域社会からの排除をあおる言動―の3類型に分け、典型例を示した。
(1)には「○○人は殺せ」「○○人を海に投げ入れろ」「○○人の女をレイプしろ」を挙げ、(2)には蔑称で呼んだり、ゴキブリなどの昆虫や動物、モノに例えたりする言動が該当し得るとした。隠語や略語、伏せ字を使うケースがあることから文脈や意味合いを踏まえる必要があるとした。
(3)には「○○人はこの町から出て行け」「○○人は祖国へ帰れ」「○○人は強制送還すべき」を例示。加えて、条件や理由を付けて正当な言論を装う例がみられると指摘。「○○人は全員犯罪者だから日本から出て行け」「○○人は日本を敵視しているのであるから出て行くべきだ」のように、付された理由が意味をなさず、排除する趣旨にほかならない場合は該当するとの見解を記した。
また、解消法は保護対象を「適法に居住するもの」と表記しているが、国会審議での答弁や付帯決議を示し、「不法滞在者等に対する『不当な差別的言動』であれば許されるとする趣旨ではないとされている」との留意点も付記。在日米軍に対する批判など政治的言動も該当しないとしている。
一方、同じ文言でも状況や背景、前後の文脈により趣旨や意味が変わり得ることから、一律の判断基準を設けるのは困難との考えも示し、個別具体的な状況を踏まえた判断が必要としている。同省人権擁護局はさらに「挙げているのはあくまで現段階での典型例。新たな事例の発生も想定され、更新することもあり得る」と話す。
解消法は国と自治体に対策の実施を求めており、自治体からはヘイトスピーチの判断基準や具体例を求める声が上がっていた。なかでも川崎市は全国に先駆け公的施設でのヘイトスピーチを事前規制するガイドラインの策定を表明したばかり。規制する言動をどう定義するかが今後の課題となっている。市人権・男女共同参画室の担当者は「共通の理解の仕方が整理されたのは良かった。ただ、現在進行形の問題であり、国には継続的な情報提供と事例の充実を求めたい」としている。