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(写真・神奈川新聞)

 

ことし9月、台風18号の影響で高さ約20メートルの煙突が倒れた相模原市中央区並木1丁目の銭湯「並木湯」が今月9日、約3カ月ぶりに営業を再開した。燃料をまきからガスに切り替え、設備投資に約700万円の費用がかかると見込むが、再開を望む声が後押しした。不要になった煙突処理代金など一部の費用70万円分は、インターネット上で資金を募る「クラウドファンディング」で支援を呼び掛けている。昭和の風情を残す脱衣所と新しい支援システムの絶妙な組み合わせで再出発を図る。

 

「寒いね」「風が冷たくなってきたね」。昔ながらの番台に立つ出口輝江さん(75)と客との間で、何げない会話が戻っていた。

 

1980年開業の並木湯は、9月18日に煙突が倒壊。隣接アパートの屋根を破損したが、けが人はなかった。夫で創業者の親次さん(84)が体調を崩した後、ここ10年ほぼ1人で切り盛りをしていた出口さんにとって銭湯の営業は生きがいで、長男範嗣さん(48)ら子どもたちが友人の力を借り、再開に奔走した。出口さんは「悩みましたが、お客さんが喜んでくれるのが何よりうれしい」と話す。

 

並木湯を利用する客のほとんどが自宅に風呂がある。それでも470円(大人料金)を払って足を運ぶのは、特に高齢者にとっては地域コミュニティーであり、家庭風呂では味わえない魅力があるからだという。

 

男性客(78)は「家の風呂は狭くて、タオルで体を洗うにも腕が壁にぶつかってしまう。並木湯はなくては困る存在」と力説する。女性客の一人で、同区上溝から母親(88)を連れ車で訪れた会社員北村和保さん(57)は、デイサービスに行くほどではないお年寄りの介護予防に役立っていると強調。「ご近所や地域を飛び越えての裸の付き合い。普段会わない人と出会える不思議な場所ですね」と話し、週3回、どんなに忙しくても時間をつくって訪れるという。

 

燃料がガスに変わったことに「まきは湯がやわらかく、とろみ感があったのは確か。でも、慣れてしまえば、違いはありませんよ。再開はうれしいと思ったけど、採算が取れるのか心配した」と気遣った。

 

営業再開後、出口さんを支えるため小田原市内から足しげく通って番台に立つ次女(50)は「ソファや金魚、駐車場の案内看板まで、常連さんたちが設置してくれた。コインランドリーの故障修理まで。ありがたい話です」と各方面からの温かい支援に感謝した。

 

アパートの損壊は保険で賄えたものの、家族にとって煙突の処理などに多額の費用がかかることは想定外だった。「並木湯復興支援プロジェクト」と名付けたクラウドファンディングによる募金は当初、入浴券を返礼品として用意した。長男範嗣さんは「ここまで支え続けてくれたお客さまへ感謝の気持ちでしたが、知人からの打診で純粋な寄付のコースも新たに付け加えました」と話している。

 

営業時間は午後3時〜10時半。金曜日定休。年内は大みそかまで通常営業。元日と3日は休むが2日は朝湯(午前8時〜正午)として特別営業する。

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