下積みこそ長かったが、先代の信頼もあつく、兄弟子2人が独立してからは5人の新弟子の指揮をとり、お店の中心として働くようになった岩上さん。はじめは先代の味を守っていればよかったが、やがてそれだけでは済まない時代が訪れる。
浅草橋の町。最寄りの浅草橋駅からお店に向かう途中、日本橋から蔵前にかけて太く伸びる江戸通りには高いビルが並び、昔からの問屋や個人商店もまばらに目にするが、大手資本のチェーンがやはり目立つ。昔の下町の面影をわずかに残す、今風の町と言っていいと思う。
「うちの周りでも昔からのお店がなくなって、どんどんマンションが建っていく。マンションに住む人って、なぜかあまり食べに来ないんだよね」
再開発が進んで、地元住民が減っていく町。そして、それと別に気付いたのが、浅草橋には意外なほど中華のお店が多い。
「最初はうちだけだったんだけど、後からどんどん新しいお店ができてねえ。できては潰れ…を繰り返すテナントもあるけど、それでも今でもうちの周りだけでも5軒は中華の店があるし。ついおとといも新しい店が一軒開店したね」
当然ながら新しいお店ができれば、客足は流れる。新しい店は、目新しい流行、目新しい味での勝負をかけてくる。
「うち一軒の時代は、くらべる店もなかったから、昔のままの味でよかったけれど、他のお店がどんどんできると、そうも言ってられない。自分の店の味を変えてはいけないけれど、そのままでもいられない。おいしいと評判のお店で食べてみて、研究はずいぶんしたね。うちの昔の味では、弱いと思った」