江戸時代末期。ひとりの武士が流刑となり、佐渡島へと流された。少しのときを経て、今度は吉原の女郎が流されてくる。島には、流人たちが信じる伝説があった。それは「春に赤い花が咲くころ、お赦免船が来る」というもの。
映画『赦免花』で、流刑となる武士、憲吾を演じるのが市瀬秀和だ。
いちのせ・ひでかず★
75年3月16日生まれ、山梨県出身。00年、大河ドラマ『葵
徳川三代』(NHK総合)でデビュー。おもな出演作にドラマ『ウルトラマンコスモス』『水戸黄門』(いずれもTBS系)などがある。声優として『家庭教師
ヒットマン REBORN!』の獄寺隼人役でも知られている。
映画『赦免花』
監督/軽部進一
3月16日(土)~、テアトル新宿ほか全国ロードショー
(C)「赦免花」製作委員会
(オフィシャルサイト)http://www.syamenbana.com/
――市瀬さんは本作で、憲吾という、流人の中でも知性を感じる男性を演じています。彼をどのように分析して演じましたか?
「憲吾はもともと江戸にいたんですが、まわりの企みによって、悪いことをさせられ、島に来ることになりました。彼自身は心が広い人です。島に流された現実を受け入れつつも、流人と島の人々を区別するような人間ではないと思ったので、そこから役を作っていきました」
――作品を見ると、博愛主義的な雰囲気がありますよね。市瀬さんご自身と似ていると思う部分はありますか?
「僕とですか(笑)。もめ事が嫌いな部分じゃないでしょうか。何かトラブルが起きても、僕は勢いで突っ込むより、いったん客観的に状況を眺めたいほうなんです。『こっちにも悪いところがあるんじゃないの?』という。それによって、気が楽になるんです」
――市瀬さんも、温和なイメージをお持ちですよ。なんとなく憲吾と近い気がします。
「イライラすることももちろんありますけど、あまりカッカしないほうです。そういう意味で、キャスティングしてくださったのかもしれません」
――作品では、雪景色がとても印象的でした。撮影は寒かったんではないでしょうか?
「4月に、山形県の庄内映画村で撮影しました。雪がたくさんあって、草履のシーンでは足の感覚が『痛い』を超えている。大変でしたけど、山のほうからずっと続く、雪の様子がきれいでした。東京にいると見られない景色ですから」
――防寒対策は、ばっちりでしたか?
「着物なので胸元が空いていて、中に着込めないんですよ。『用意、スタート!』の声がかかるまでは、みんなブルブル震えていました」
――劇中でも披露していらっしゃいましたが、もともと殺陣がお得意なんですよね?
「僕、時代劇に憧れて役者を始めたんです。祖父が時代劇好きで、僕も小さいころから見ていました。それで、18歳を前に将来を考えたとき『時代劇にでたらおじいちゃんも喜ぶかな』と思い、目標を決めたんです。でも今、時代劇がどんどん減っていますよね。僕が役者を目指したころには考えられない状況です。今後は自分なりに、時代劇の素晴らしさを残していきたいと思います。時代劇にこだわって、刀の魅力などについても伝えていきたい」
――時代劇で、憧れの役者さんはいらっしゃるんでしょうか?
「市川雷蔵さんがかっこいいなと思って、この人をめざしてがんばろういうのがスタートでした。『大菩薩峠』(60年)という作品があって、着流しに刀一振りで立ち廻りを演じているシーンがかっこよくて。そこから、さらにいろいろ勉強する中で、嵐寛寿郎さんの作品に巡り合いました。嵐寛寿郎さんは、着流しで立ち廻りをしているとき、たまに太ももを見せるんです。これに色気があって、いいですよ」
――いま、時代劇の放送が減っている現状に、歯がゆさなどは感じませんか?
「そういう時期もありました。でも、今はむしろ、僕らの年代が開拓していかないといけないと思っています。僕らががんばってやっていけば、時代劇をやりたいという人が増えてくるでしょう。とくに、歴史が好きな女性も増えているので、女性誌で時代劇の特集が組まれるくらいのブームが来てほしいです」
――上半身アップのシーンがありましたけど、すごく鍛えてらっしゃる体でしたよね。
「普段の練習の成果でしょうか。上半身に目が行きがちですが、立ち廻りは足のさばきがすごく大事なので、じつは下半身のほうが重要なんです。居合いの稽古を週に4回、1回に2~3時間、しています。普段から稽古をしていると、本番にも自信を持って臨めますから。それに、立ち廻りの“ルール”というのがあるので、それをつかむためにも稽古はしておいたほうがいいんです」
――ところで今回の映画は、悲しい恋の物語ですが、市瀬さんにそういうご経験はありますか?
「僕は悲しい恋ばっかりです。恋愛は若いころに、いっぱいしたほうがいいと思います」
――では最後に、この作品の魅力をお聞かせください。
「流刑の島という場所ゆえ、助け合わないと生きていけない、ひいては、人は一人では生きていけない、ということまで描いている作品だと思います。それと、特機(特殊機械)の監督として有名な、軽部進一さんが監督として手がけた作品なので、迫力のある映像が楽しめるはずです。音楽総指揮を担当するのが、河村隆一さんというのも注目です!」