「当時、僕は27歳。とにかくやってみたいことがいっぱいで、体よりも思いのほうが先にいってしまう。そうした世代特有の向こう見ずさが、ひとつのエネルギーとなって爆発しているなあと思います」
映画『佐野元春「Film No Damage」』は、佐野元春の80年代初期のライブが記録されたロック・ドキュメンタリー。’83年夏、上演されたのを最後にフィルムが行方不明になり、その後30年、一度も公開されることはなかった。その幻の映像がこのたび発掘され、完全デジタル・リマスター版として復活した。
「16㍉フィルムで撮影された映像が、現代のデジタル・リマスタリング技術により、音も映像も見違えるほどに。まさに『よみがえった』という言葉がぴったり、感動しました」
制作されたのは’80年前半。同年『アンジェリーナ』で鮮烈なデビューを飾った佐野は、デビューから3年間のライブ映像を記録しようと思い立った。目標としたのは、ビートルズの『レット・イット・ビー』や『ウッドストック』、ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』といった欧米のロック・ドキュメンタリー・フィルム。
「多感な時期に見て、すごく感動したんです。だから、自分もミュージシャンとしてデビューしたのなら、初期のステージを映像で残し、後になって当時のファンだけでなく、新しい世代の人たちにも見てもらいたいと思ったんです」
構成もすべて自身が考案。ライブステージを中心に、オフ・ステージの映像やコメディ・シークエンスが加えられた。導入とラストに流れる「東京の街」が印象的だ。
「’80年代初頭、『ニュー・キッズ』と呼ばれる連中が台頭してきた。都市部に暮らす彼ら、リベラルな人たちが求めた音楽が〝街〟。街で起こるさまざまな物語をロックンロールする、それができたのが、東京育ちの僕だったんです。それまで日本のロックやフォークソングは、私小説の世界を歌った音楽ばかりで、飽きられていたんだと思う。みんなが僕の歌を求めてくれるなかで生まれたのが『サムデイ』などストリートの歌でした」
その『サムデイ』も今秋、アルバムの内容をライブでそのまま再現するという企画「名盤ライブ」でよみがえる。
「これまで僕を支えてくれたミュージシャンたち、『佐野元春オールスターズ』が集結する予定です。アルバム収録曲の演奏にプラスアルファな内容を考えていますので、ぜひ、楽しみにしてください」
さの・もとはる
’56年3月13日生まれ、東京都出身。’80年、シングル『アンジェリーナ』でレコードデビュー。『ガラスのジェネレーション』(’ 80 年)、『サムデイ』(’ 81年)、『約束の橋』(’89年)など、大ヒット曲を相次いで発表。’92年、アルバム『スイート16』で日本レコード大賞アルバム部門を受賞。’04年、自主レーベル『Daisy Music』 を設立。’13年3月、6年ぶり15枚目となるアルバム『ZOOEY』をリリース。11月には、欧米の人気企画『名盤ライブ』初の日本人アーティストとして、アルバム『SOMEDAY』をライブで再現する。
映画『佐野元春「Film No Damage」』
デジタル・リマスター版が全国の映画館で上演中
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