画像を見る

昨年の鮮烈なデビューで日本音楽界に衝撃を与えた美しきドラムボーカル、シシド・カフカ。縁あるゲストを招き、音楽、さらには人生談義を繰り広げる対談企画「アイノカンジカタ」、5回目はレディースバンドの先駆け的存在であり、常にシーンをリードしてきたSHOW-YAのドラマー、mittanこと角田美喜がついに参戦!

 

SHOW-YAがメジャーシーンに躍り出た1985年頃は、まだ女性のみで構成されたロックバンドというものは希有な存在だった。それから月日は流れ、ロックにジェンダーを持ち込むのは無粋とさえ感じられるような時代となった。未だに「女性ドラマー」はそれほど多いとは言えないが、まずは日本における女性ドラマーの今昔が俎上に上がった。

 

image

 

■同じ女性ドラマーとして

 

シシド・カフカ(以下:カフカ)「私はまだ(経験が)浅いと思うんですが、最近(女性のドラマーが)増えたなっていうのをすごく感じているんですよ。高校生だった10年くらい前はライブハウスでライブをやるときもドラマーが女子っていうのは10回やって1回会えるか会えないかだったんですね。でも今は2回ライブをやったら1回は絶対いるって感じです。絶対に対バンではいませんでしたよね」

 

角田美喜(以下:角田)「いなかったですね。私が18くらいのときに音楽の専門学校は1校くらいしかなくて、その中でもドラム科はみんな男の子で女子は私1人で。だから最初はすごく珍しがられてね。他にまったくいませんでしたから」

 

カフカ「学校以外の環境でも会いませんでした?」

 

角田「会わなかったですね」

 

image

 

カフカ「そうなんだ。じゃあその時代、日本では有名な女性ドラマーとかはいなかったってことですか?」

 

角田「日本にはいませんでしたね」

 

カフカ「向こうではカーペンターズ」

 

角田「そうです」

 

カフカ「あと誰ですか?」

 

角田「ランナウェイズとかかな~」

 

カフカ「じゃあ全世界的にほとんどいなかったってことですか?」

 

角田「まだね、ほとんどいなかったからそういう意味ではラッキーだったかな」

 

カフカ「珍しくは見られますけど、ある意味生きづらいなっていうところはなかったですか?」

 

角田「まぁどっちかっていうとやっぱり珍しいから、『おもしろい、おもしろい』って言われて、まだあまりそのころは先輩がいなかったし、初めだから何をしても許されるというか」

 

カフカ「私のときは(女性ドラマーは)もちろん少ないんですけど、いなくはなくて。だから珍しがられはしないわけですよ。ちょっとは珍しいんですけど、新しくはないんですよね」

 

image

 

角田「でもやっぱり歌って叩くドラマーっていうのは女性ではいないから、そういう意味ではパイオニアだと思いますよ」

 

カフカ「私は年上の方に『女にしか出せない音があるんだよ』って言ってもらえてやりやすくなっていきましたね。その人達は女性ドラマーに対するリスペクトがあったんですよ。それは多分mittanさんたちが切り開いて行ってくれたからだと思うんですけど。ドラムの音に関して男性から何か言われたことありませんか?」

 

角田「スネアのタイミングとか……なんだろう、太いビートが意外と出る。それでスネアは意外とジャストに打てるっていう」

 

カフカ「女性が男性の音を出すことはできるんだけど、男性が女性の音を出そうとすると無理だから、女にしか叩けない。それは女のドラマーの特権なんだよって言われましたね」

 

角田「女性のドラマーの音って圧倒的に包容力がある気がするんです。女性特有の母性本能じゃないけど、包み込むようなサウンドっていうのを感じるんですよね」

 

カフカ「私にもありますか?」

 

角田「うん。あります。あります」

 

カフカ「よかった(笑)」

 

■叩くのに女らしさはいらない?

 

image

 

——2人がドラムを始めたのは中学時代。ドラマーとして目覚めた原点はどんなものだったのだろう。

 

角田「やっぱりQueenの世代なので、Queenとエアロスミス。あとちょっと遡って(レッド・)ツェッペリン、ディープ・パープルとかそういうハードロック系をコピーしてやってましたね」

 

カフカ「ドラムを始めたのは?」

 

角田「15歳です」

 

カフカ「なにがきっかけだったんですか?」

 

角田「お兄さんがドラムをやっていたので、お兄さんがいない間に部屋に行ってちょっと」

 

カフカ「家にドラムがあったんですか?」

 

角田「あったんですよ。毛布とかかけて音が鳴らないようにして」

 

カフカ「へー。跳ね返りが全く無い中?」

 

角田「そう(笑)。カフカちゃんは?」

 

カフカ「私は周りに楽器をやる環境がないまま、ただ単にドラムに惚れてやらせてくれっていう」

 

角田「最初からドラム?」

 

カフカ「ドラムでしたね。ずっとやらせてくれって4年間しきりに言い続けて4年越しで願いが叶って14のときに始めたんですけど、あと1年ドラム買ってもらえてなかったら、私多分ベースをやっていたと思います。ベースなら買ってもらえるかなっていう淡いあれですけど(笑)。ドラムだけは場所も必要だし、やっぱり親の理解が必要だったので。私の場合、周りに変わり者が多かったのか、ドラムやりたいっていう子が他にもいたんですよ。実際みんな何もやってないので、バンドなんてできないんですけど、小学生のときに『私ドラム』『私ギター』って話しているときに、その子とドラムを取り合って本気で喧嘩をしてましたね(笑)」

 

——男社会だったドラムの世界。2人とも、叩き始めたころは女性らしい音を出す、というよりもやはり男性に負けない、強い音を出したい、と思っていたという。

 

image

 

カフカ「女性っぽい動きっていうのを特に昔は嫌っていました。あの人よりもかっこよく叩きたい、っていう感じでやっていましたね」

 

角田「私もですね。いろんな人の(ライブ)を見に行っても男の人しか叩いてないから。当時コージー・パウエルっていうRAINBOWのドラマーがツーバスで。それがかっこよかったから真似して。もう全部真似する対象が男性だったから、女の人のしなやかさとかがなくなってるんじゃないかって逆に心配しいてる(笑)。あんまり男の人っぽくなってもせっかく女性バンドなのにっていうのもあるし、でもお手本がそこしかないから、知らず知らずのうちにアクションとかは似てくるよね」

 

カフカ「私も女性ドラマーからはあまり(お手本を)いただかなかったです。結局真似事を集めて自分のものにしていくじゃないですか。なのでアクションに関しては女性からは特にもらったことがないかもしれないですね」

 

角田「カフカちゃんはすごくかっこいいもんね、動きが。ストロークが大きいからものすごくダイナミックだし、見ていてかっこいいなあと思う。女性でこれだけかっこいい人はいないよね」

 

——ドラミングには体力を使う。スティックを持った両手は絶え間なくセット中を動き回り、脚はバスドラムから重低音を響かせる。男性バンドでも、ドラムは体格の良いメンバーが担当するというイメージがあるが、この2人の女性は驚くほどスリムだ。

 

image

 

角田「筋肉は鍛えてますね。スポーツ好きなので」

 

カフカ「いいですね。私、運動が全般的に本当にできなくて、筋肉をつけようと思ったらドラム叩くんですよ」

 

角田「じゃあ特にジム行ったりはしてない?」

 

カフカ「トライはするんですけど、続かないんですよね。でも、プロの方にドラムで使う箇所以外の筋肉もつけたほうがいいと伺って、ちょっと今悩んでます。このままだと腰を痛めそうで」

 

角田「腰はね。私もひと通りやってます。でもそれをカバーするために腹筋と背筋と体幹を鍛えるトレーニングとか。私は格闘家のトレーナーの先生にしばらくついて、加圧トレーニングをやってました。今はそういう指導される方も増えてきてますよね。当時は全然いない時代でしたけど」

 

カフカ「じゃあ鍛え方を間違えることもあったでしょうね」

 

角田「ええ。ありすぎて痛めちゃったりとか。今見返すとむちゃくちゃな叩き方してて、この叩き方じゃそりゃ体壊すよ……みたいな。今は後輩の育成をしていますけど、体作りの大切さも教えてますね。ケガをしないように、楽に無理なく叩けるように」

 

カフカ「最近は師匠の大島さんが、私の悪いところに気づくとスティックの握り方とかを囁いてくれるのでそれで保っているところはあるかもしれないですね」

 

角田「でもすごくキレイな指ですよね。無理な握りをしていると豆がね……」

 

カフカ「本当ですか?でも豆のできる場所がけっこう謎なんですよね」

 

角田「すごくマニアックな話になってますね(笑)」

 

カフカ「私いまだに血豆とか作って恥ずかしい思いしてます」

 

角田「私も血豆は良くできる。あとは水ぶくれになって針で刺してね、水出すんですよね」

 

カフカ「私は握りこみが深いのでやっぱりこっち(血豆のできるところを指さして)にできちゃいますよね」

 

角田「指長いからね。カフカちゃん手足長いから指も長いと。長すぎるって自分でも思うんじゃない?

 

カフカ「どうなんでしょう?頭叩いちゃったりはありますね。けどそれはみんな共通なので。今はちょっと得してるなって気がします。やっぱりオーバーなアクションに見えるし、あそこ(ドラムセット)から動けないのでセンターのボーカリストとして動きを大きく見せなきゃと思うと、そういう意味では得してるかなって思いますね」(続く)

 

image

 

【PROFILE】

角田“mittan”美喜 MIKI TSUNODA

ドラマー 168cm 12月7日生まれ
出身地:東京 好きなアーティスト:コージー・パウエル、ジョン・ボーナムなど

兄の影響を受け15歳でドラムを始める。1983年にレディースバンドのパイオニア的存在であるSHOW-YAに加入。1998年の解散までに12枚のシングルと10枚のアルバムをリリース。ドラマーとしてもNHKの子ども番組や各地でのドラムクリニック開催など、幅広い活動を続けている。SHOW-YAとしては4/29(月・祝)に日比谷野外音楽堂90周年事業イベントSHOW-YAプロデュース「NAONのYAON2013」を開催。

【関連画像】

関連カテゴリー: