「お笑いのキャリアを持つ俳優さんは、真面目なお芝居だけを演じてきた人には出しにくい微妙な人間心理や、人間の持つおろかしさ、カッコ悪さをリアルに再現できる点が、魅力だと思います」
そう分析するのは、お笑い評論家で江戸川大学准教授の西条昇さん。
「口では好きと言いながら、じつは嫌い……そんな感情をどう伝えるか。森繁久彌さん、渥美清さんをはじめ、お笑いの経験のある役者さんは、裏の裏の演技をすることで、自分も深みのある存在感が出せるんです」(西条さん・以下同)
昭和50年代半ばになると、空前の漫才ブームが巻き起こる。ここから登場したのが、明石家さんまやビートたけし。さんまはトレンディドラマなどにも出演し、たけしは自身も映画に出演しながら、監督・北野武としても高い評価を得るようになった。
その後、多くの芸人が映画に出演するようになった。かつてのお笑い俳優が映画に出演したころと違うのは、性格俳優として効果的に起用されたところ。じつは、初めに芸人をそうした形で抜擢し成功したのが、故・黒澤明監督だった。
「『乱』(’85年)では植木等を、『夢』(’90年)ではいかりや長介を起用しています。彼らはドタバタで笑わせるのではなく、緻密な心理描写で笑わせるのがうまかったんです」