「私は人見知りで、できれば人前に出たくない性格なんです。でもこの番組のお話は、当時のマネージャーがノリノリで持ってきてくれたものでした。1回目の当日は、ニッポン放送に行ったのはいいんですけど、スタジオでは木曜一部のビートたけしさんたちが、にぎやかに番組をしていて。それを見て、『私にはとてもできない!』と、帰ろうとしたくらい」

 そう語るのは、特徴的なハイトーンボイスで木曜二部(深夜3〜5時)を4年間、担当した谷山浩子。周囲に引きとめられ、ドキドキしながらもなんとかマイクの前に座った彼女の第一声は、今まで自分でも出したことのないような高い声。その甲高い声にいちばんびっくりしたのは、谷山本人だった。

「追い詰められて別人格が出ちゃったのか、と。でも、一度始めたら、それで続けるしかなくなりました(笑)。翌週、大きな紙袋にいっぱいのはがきがきました。そんな大量の郵便物を見たことがなかったので、驚きました」(谷山・以下同)

 そのはがきを読みながら、トークの準備を始めようとしたところ、「準備なんてするとつまらなくなる!」と、放送作家に怒られた。放送中にスタッフが選んだはがきを手渡されて読む、という“谷山スタイル”は、こうして確立されていく。リスナーの中心層は、10代の女性。当然、送られてくるはがきには恋愛話も多かった。

「福岡で、私のコンサートに来てくれた女のコが、会場にいた男のコに一目ぼれして。だけど、勇気がなくて声をかけられなかった、というはがきがきました。きっと番組を聴いていると思うから、捜してほしいと。手がかりは、その彼が会場で『猫耳』をつけていたことだけ。そうしたら翌週、『僕が猫耳少年です』とはがきがきたんです」

 シャイな性格の少年なのか、はがきには住所も名前も書かれていなかった。そこでせめてもの記念にと、彼女に少年からのはがきを送ったところ……。

「その女のコ、はがきの消印をヒントに、彼が使いそうな駅を割り出して、その駅で6時間も待ち続けて、彼を見つけたんです。それで、ついに2人はつきあうようになったんです。恋ってすごいなぁ〜、と、それがきっかけで、駅で待つ女のコの歌ができました」

 個人情報に大騒ぎすることのなかった時代ならではのエピソードだ。ちなみにこの話、半年後に彼から「フラれました」と報告が届くというオマケつき。恋の始まりも終わりも、パーソナリティを通じて全国に報告する。リスナー同士の距離も、とても近かった。

 現在、谷山はダウンロード配信ラジオ番組『オールナイトニッポンモバイル』を担当。変わらぬ彼女のトークが楽しめるようになっている。

「私にとってラジオは、脳の新しい領域を広げてもらったというか、いろんなことを教えてくれる学校のような存在でした。当時、聴いたことがない方も、モバイル版で、気軽に楽しんでくださいね」

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