「母の徘徊は、日を増して深刻になっていきました。17時間帰って来なかったこともあり、何度も警察のお世話に。深夜でも家を飛び出すため、熟睡できない。オムツを取ってからトイレに行くまでに粗相することも日常茶飯事。家は汚物とアルコールの臭いが立ち込め、私は『帰るのを5分でも遅らせたい』と思うようになりました」と語るのは、秋川リサ(62)。
15歳でモデルデビューし、ファッション誌『anan』でブレイク。その後、女優・タレントとして映画・ドラマやバラエティ番組に出演し、近年はビーズ作家としても活躍。私生活では2度の離婚を経験し、2児を引き取りシングルマザーとなった彼女。子育てでもようやくひと段落した矢先の09年夏、母・千代子さん(87)の認知症に気がついたという。発売中の著書『母の日記』(NOVA出版)には、そんな壮絶な介護の日々が綴られていた。
発覚から6カ月後の診断では、要介護1から3にまで進行していた。ガスコンロの火をつけたまま外出したりかと思えば、家の中で新聞紙を燃やしていたこともあったという。一瞬たりとも母から目が離せない。そんな生活で次第に心秋川は疲れていった。そんなある日、彼女は家の中で母の日記を偶然発見。そこには、信じがたい言葉が綴られていた。
「85年くらいから始まり、大学ノート7冊に及んでいました。最初は日記だとも思わず何気なく開いたところ、中に綴られていたのは私への罵詈雑言の数々でした。『大っ嫌い』『死んじまえ』だけでなく、『娘なんて産まなければよかった』『生活の面倒を見てるからって、偉そうに』とまで……。思わず呆然としてしまいました」
身の回りの世話をしていても『この人は感謝なんてしていない』という思いが込み上げる。問い詰めようにも、母にはもう分からない……。このままではダメになってしまう。そう思った彼女は、老人ホーム探しを始めた。そして11年3月に介護付き高齢者専用賃貸住宅に入所。12年9月からは埼玉県にある「特別養護老人ホーム」にたどり着いた。現在は月に1度か2度面会に行く生活だという。“母の終の棲家”を見つけたことで、秋川の生活もようやく平穏を迎えつつある。転機となった日記について聞くと、こう答えた。
「月日が経った今、日記を見たことで施設入りを決めることができたのかもしれないと思えるようにもなりました。だから日記は燃やしましたが、いちばん新しいノートだけは持っています。戒めというわけではありませんが、私も認知症にならないという保証はありませんから。ひとつの参考書として、今も家に残っています。介護って、それは大変ですよ。でも、過ぎてしまえばきっと笑える日も来ますから」