今年、生誕90周年を迎えた三島由紀夫。彼に懇願されて美輪明宏さんが主演した舞台『黒蜥蜴』。47年前の初演は大好評を博し、以後再演を重ねてきたが、ついに今春、ファイナル公演を迎えた。この名舞台の“生みの親”でもある三島との知られざる交流を美輪さんが語る――。
自決される1週間前、三島さんは私がコンサートをやっている日劇の楽屋を訪ねてこられました。「出演おめでとう!」と言いながら、抱えきれないほどのバラを持って。普段ならご家族のことなどはあまり話さない方なのに、その日に限って弟さんの話をしたりして、いつもの様子とはちょっと違っていました。
三島さんが劇場の控室からお帰りになる際、突然楽屋を振り返り、「もうこれっきり、君の楽屋には来ないからね」と。「どうして?」と聞いたら、「今日も奇麗だったよ!なんて嘘をつくのがつらいから、もう来ないよ」、そんな皮肉交じりの冗談を笑いながらおっしゃって出ていかれました。
その後三島さんは、客席のいちばん前の方に座られて、眼鏡をかけて私のステージをずっとご覧になっていました。そして私が三島さんの大好きだった曲『愛の讃歌』を歌っているときに、彼の考えていることが、波動となってすべて伝わってきたのです。私との出会いから最近までのいろんな出来事を、走馬灯のように思い出している波動が送られてきた。あれは不思議でした。
私たちのことを“恋愛関係”と書き立てるメディアも多くありましたが、とんでもない話です。昔ある雑誌で文壇の方々と対談する連載をやっていました。その対談に三島さんにも出ていただきました。そのときこんなことを言われました。
「君には95%の長所がある。才能もあるし美貌もある。だけど、5%の短所がある。その5%の短所は、95%の長所をいっぺんで吹っ飛ばしてしまうくらいの最悪な短所だ」と。
私は「95%の長所を吹っ飛ばしてしまう短所って何?」と聞いたら、「俺にほれないことだ」って(笑)。
面白いでしょ?私は尊敬する人には恋愛感情を抱きません。尊敬できる人はあくまでも尊敬している人。恋愛感情になってしまうと何かグレードが落ちるような気がするからです。そして年齢や容姿・容貌、そんなのはいっさい関係ない。何か気の毒でかわいそうな陰がある人を好きになるのです。
三島さんは劣等感の塊でした。でもそれを補って余りある才能がある人、天才でした。誰にでも悩みやら欠点があるのですから、劣等感などは本来持つ必要はないのです。ただ三島さんは純粋で、とてもチャーミングな方でした。私の前ではまったくの無防備で、それだけ安心されていたのだと思います。無二の親友ですね。