「役者をやっていても、朝が早かったり夜が遅かったりでつらいときもあるけど、それも楽しい。今健康で、元気で、お仕事をいただいているからなんだけど、人が寝ている時間に働かせてもらうなんて、こんなありがたいことはないですよ」
そう語るのは、隔週連載『中山秀征の語り合いたい人』第55回のゲストで、俳優の高橋英樹さん(71)。バラエティ番組では娘・真麻さんとの共演も多く、豪快に笑う朗らかな人物としておなじみ。一方で、時代劇には欠かせない迫力ある役者としても活躍中。老若男女が知っているお茶の間の人気者は、イメージどおりのとても親しみやすい素敵な人でした−−。
中山「英樹さんはそもそも、日活ニューフェイス第5期ご出身で、デビュー時は高校生だったとか?当時の日活というと、ファミリー感、仲間意識が強いですよね」
高橋「親切な人が多くて、本当にありがたかったですね。撮影に入ると朝が早くて実家の千葉から通えないので、『おまえんとこ泊めて?』って(笑)。そんなある日、日活の重役たちが集まって企画会議をしたときに、高橋英樹は脚が短いということに気が付いたらしいんです(笑)。それなら隠せばいい、着物を着せてしまえば見えないということになって、任侠映画に出ることに」
中山「それもすごい話ですね(笑)」
高橋「人生の転機でした。とにかく着物に慣れなきゃいけないと思って、着物を着て生活するようになり、日本舞踊を始め、勉強のために歌舞伎を見に行くように。初めはできなかったことを必死で覚えていくのは大変でしたけど、それも楽しかったですね」
中山「そこからNHKの大河ドラマに出演」
高橋「『竜馬がゆく』という作品に出演しました。それまで日活で90本くらい映画に出演しているのに、NHKでは『高橋英樹ってどこの役者?』と言われるんです。映画を見ない人は知らないんです。母親も近所の人に『息子さんようやくNHKに出られるようになったのね』って初めて言われたって言ってましたから」
中山「映画で何本も主役やってるのに……」
高橋「そう。時代はどんどん変わってきた。それならテレビにどっぷり浸ってやろうじゃないかって。’69年以降、私はテレビ時代劇に進出していくんです」
中山「映画スターの人たちの武勇伝は数多く聞きますけど、英樹さんは?」
高橋「お酒は飲めないけど、銀座に行っていましたね。石原裕次郎さんも小林旭さんも銀座のクラブに連れて行ってくれて、おごってくれていたんですよ。自分も一人前になったら、絶対にみんなを連れて行ってあげようって思っていたんです。お酒が飲めないのに、カルピスだけで24日間通ったことがありますよ(笑)」
中山「カルピスキープですね?(笑)」
高橋「その店のママさんに『ウチの従業員より店にいる』って言われたもん(笑)」
中山「相当な飲み代のツケが……」
高橋「20代は毎日飲んでましたから、知らず知らずのうちに借金だらけになっていたんですね。時代劇を始めてからは京都にいたので、お茶屋さんやクラブに行くんです。まぁクラブ活動ですよね(笑)」
中山「もう寝ずに撮影ですよね?」
高橋「朝6時過ぎに『朝日がまぶしいなぁ』と言いながら飲み友達と別れて、そのまま撮影所へ。メークしてカツラかぶって、朝8時に撮影スタート。ワンカット終わるごとに寝ていましたね。撮影が終わると、今日はやめておこうって思うんだけど、ネオンがつきだすころには元気になっちゃう(笑)。京都でスッカラカンになりましたね。ちょうど結婚式を挙げるときには4千万円くらいの借金がありました」