「彼女を老人ホームに入れて1カ月。僕が会いに行くと、顔を見た瞬間、彼女はね、泣き出して、両手を出してくるんですよ。だからね、嫌なのを我慢してるのかな、可哀想だなって思ってたんだけどね……」
妻の大山のぶ代(82)を老人ホームに入居させたことを明かした、砂川啓介(79)。大山のいまの様子は――。本誌の取材に、砂川が口を開いてくれた。
入居のきっかけは、大山を介護してきた砂川に尿管がんが発覚したことだった。
「僕は入院して抗がん剤治療に入ったんですが、最初は身体が激しく痛んでね。でも数日して痛みが治まると、“カミさんはホームでうまくやっているだろうか”と心配になってきて。マネージャーに見に行ってもらったんですよ。そうしたら意外や意外、水が合ったのか、彼女は怒ったりすることもなく、元気でやっているというんです。フラワーアレンジメントやちぎり絵、音楽療法でみんな一緒に歌ったりと、いろんなレクリエーションがあって、それを喜んでやっていると聞いてホッとしました」
大山はホームに入ってから、体調もよくなってきたそうだ。
「体重も2~3キロ増えたみたい(笑)。いつもスタッフがついててくれて、体を動かすことも手伝ってくれる。それがよかったんじゃないかな。いまは本当に楽しそうでね。ホームに預けて、よかったなと思ってます。僕の病室にも、ホームから3回ほど彼女が見舞いに来てくれたんですよ。マネージャーに連れられて来て、僕の病室に入るとやっぱり泣き出す。最初は『大変でしょ、あなたもかわいそう』なんて言ってくれるんだけど、やっぱり30分も続かないんだ。その間に、どうして僕が入院してるのかを忘れちゃう。記憶がそれ以上、続かないんです」
3週間抗がん剤治療を受けた砂川は、一時退院。以降も治療のため入退院を繰り返しながら、現在に至っている。
「いま自宅にひとりでいると、すごく寂しいですよ……。彼女への愛しさをものすごく感じるようになりました。食べてくれる人がいないから、メシを作る気もしません。だから毎日、簡単なものや店屋ものばかり。それを食べ終わって、さあ寝ようというときに、ふと『あいつ、いまどうしているんだろう?』と考えると、自然に涙があふれてきてね。これがやっぱり愛なんでしょうね。この歳になって愛だなんて恥ずかしいんだけど(苦笑)。そんなときは余計、そばにいてやりたいって気持ちが強くなるんです」
離れてみて改めて、妻への愛をしみじみと実感したという砂川だった――。