左とん平さんが2月24日、亡くなった。享年80歳。死因は心不全だった。
左さんは昨年6月、自宅で胸の痛みを訴えて救急搬送。急性心筋梗塞の緊急手術を受けた。手術後には誤嚥(ごえん)性肺炎を起こし、酸素呼吸器をつけながら闘病を続けていた。
10月には呼吸器を外し、自発呼吸できるまでに回復。関係者も「良い方向に向かっている」と語っていたが、ついに復帰の夢は叶わなかった。稀代のバイプレイヤーは家族に看取られ、旅立った。
左さんはその愛くるしいキャラクターで人気を博した。しかし私生活ではポーカー賭博による罪で3度逮捕され、まさに波乱万丈。そんな左さんの復帰を支えてくれたのは故・森繁久彌さん(享年96)だった。15年、雑誌のインタビューで明かしている。
2度目の逮捕時、左さんは森繁さんが座長を務める舞台に出演していた。2か月公演のうちの半分を空けることとなった。しかし森繁さんは「しょうがないな。ちょっとの間、ゆっくり休めよ」と声をかけてくれたという。そして「いいか、この時期こそカネ使えよ」というアドバイスをくれた。
「こういう時期だからこそ、相手に気持ちが負けていないことを伝えなきゃいけない。相手に“そんなに気前よく使って大丈夫なの?”って思わせなきゃ」
謹慎から明けた後も左さんは、森繁さんの手を借りることとなる。森繁さんが、再び舞台に立つチャンスをくれたのだ。それが、左さんの代表作となる「佐渡島他吉の生涯」だった。同作では10分以上も左さんが1人でしゃべり続けるシーンがあり、その演技に観客は魅了。左さんも「役者としてのコツをつかんだ」と思った。そして森繁さんは言った。
「お前が、あんなに上手な役者だとは思わなかったよ」
2007年に行われた左さんの芸能生活50周年を祝う会に、森繁さんは役者としての左さんを賞賛する声を寄せている。
「あたふたと、あっと驚く50年。お前さんの当たり役の『佐渡島他吉の生涯』の橘玉堂は、本当にうまかったなぁ……。玉堂のセリフじゃないが“人生の浮き沈み”があったが……。お前さんはかわいい洒落たやつだ。とにかくおめでとう。なによりおめでとう。バンザイ、バンザイ」
森繁さんに憧れて、役者を志したという左さん。また天国で森繁さんに「かわいがられて」いるのかもしれない。