「芝居の最中はドキドキでしたけれど、しっかり2人とも勤めてくれたのでよかったです。千穐楽までケガなく、病気もせず、元気な姿をお客様に見せられたらいいですね。どうにか、お客様に見ていただけるまでになりましたが、ほんの半月前までは、親の僕のほうが焦りまくっていました」
そう語るのは、2月2日、東京・歌舞伎座の「猿若祭二月大歌舞伎」初日を無事終えた、歌舞伎俳優・中村勘九郎(35)。勘九郎の長男・七緒八くん(5)と次男・哲之くん(3)は『門出二人桃太郎』で見事、初舞台を踏んだ。それぞれ「三代目中村勘太郎」「二代目中村長三郎」として、いよいよ歌舞伎俳優としてのスタートラインに立ったのだ。
「兄弟で性格がまるで違いますからね。稽古も、かたや褒めたほうがよかったり、かたや厳しくしたほうがよかったりして……。長男の勘太郎は、もう自覚もしっかりありますし、こちらも厳しく教えています。息子たちには『もっと自信持って、堂々とやりなさい』と、声をかけています。実は僕も30年前、父から同じように言われていました。『大丈夫だから、自信持ってやりなさい』って。当時は『自信ってなんだろう?』って幼心で考えたのを、いまでもはっきり覚えてます。長三郎はね……僕がかけるそんな言葉なんかは意に介さず、怒ると、稽古をやらなくなっちゃう(苦笑)」
幼い兄弟の稽古は、主に勘九郎の母や弟子、それに妻・前田愛さん(33)が見て、仕上げに勘九郎が立ち会うというスタイルだった。あるときには「烈火のごとく息子たちを叱る妻の姿を目の当たりにしたこともあった」と笑う。
「稽古以外でも、子どもたちをまず叱るのは妻で、最終的には僕が雷を落とすっていう役回りなんです。妻は自宅で『おもちゃを片付けなさい!』と、よく叱ってますね。ふだんは優しいですが怒ると怖いですよ。僕も服を脱ぎ散らかしてたりすると怒られます(笑)」
勘九郎夫妻が結婚したのは’09年10月。“梨園の妻”となって7年を経た愛さんに勘九郎はねぎらいの言葉を送る。
「やっぱり大変だと思いますよ。2人の子どもたちを育てていくことだけでも大変なのに、こうやって芝居のことや、僕のサポートもしてくれているわけですから。結婚当初は、皆さんの名前と顔を覚えるだけでも苦労したと思います。ご贔屓の方々とか、父の友人や、先輩方など、大勢の皆さんの顔を覚えるだけで並大抵のことではありません。いまでは僕より詳しいですけどね。『あれ?いまの方はどなただっけ?』なんて、逆に僕が聞くこともあるくらいです(苦笑)。妻のすごいところは、弱みを見せないというか、愚痴をいっさい漏らさないところですね。そのことを本当に尊敬してますし、ありがたいなって思います。点数をつけるとしたら?100点満点で98点ですね。マイナス2点は……、怖いところかな(笑)」