最近、“現役バリバリ”で活躍している80歳以上の女性が目立ちます。「人生100年時代」ともいわれる今、年を重ねるほどに輝く秘訣は何なのか。そこで、世の女性たちに「生きる指針」を示し続けてきた作家・下重暁子さん(81)に、50代のうちにすべきことについて聞きました。
【“生涯現役”は50代の生き方で決まります】
私は子どものころ、体も弱く、母親から過保護に育てられました。「暁子命」の母が何事につけて世話をしようとするのが嫌で、中学生のときには、
「あなたの生き方は間違ってる!」
そう言って、母を糾弾したこともありました。その母が81歳で亡くなったのが私が51歳のとき。振り返ると、私の50代は、母の手のひらからようやく逃れられたのと同時に、自立して生きる覚悟ができた時期でもありました。
いまや、人生100年の時代。そう考えると、50歳というのは、やっと半分。前の半生が土台作りの時代としたら、あとの半生は、思い描いていた自分の人生を花開かせるとき、といえます。
私自身は50歳を前に、仕事でもプライベートでも、あえて「しんどいことを始めよう」と決めました。それまでの経験や技能をもとに、新たな挑戦を試みたのです。
仕事では、ノンフィクションの取材を始めました。自分の足で現場を歩き、けっして嘘は書けない世界に挑みたかった。実際、3年をかけて書いたのが、最後の瞽女といわれた小林ハルさんの生涯を追った『鋼の女』(講談社)です。
プライベートでは、幼いころから憧れていたクラシックバレエとオペラを習い始めました。
50代になると、みなさん、自分のこと以外でも、大きな変化が生じます。子どもに頼らない生き方については、拙著『家族という病』(幻冬舎)にも書きました。期待とは、夫や子どもにではなく、自分にするもの。
夫との関係も、男性は定年などを意識し始める時期。私の連れ合いも、まさに50歳でテレビ局を辞めて独立しましたが、まもなく大病して、お互いをいかに知らなかったかに気付きました。以来、タイミングが合えば、映画や音楽会などに誘っています。
ただし、夫婦でも一人の生活を大切にするのも、この時期からは必要なこと。私もこのころに連れ合いとは寝室も別にして、夜は自分の時間を楽しんでいます。
人との付き合いも、さまざまな違いが生じているもの。特に同性の友人との間では比較は禁物。違うからこそ個性があり、あなたが生きている意味があるのです。
そして、親の介護。私のまわりでも、本当に苦労されている方が多いです。
しかし、自分自身を振り返ってもわかるのですが、私たちは、夫や子ども同様、父母のことを、どれだけ知っていたでしょうか。そう考えると、介護も、知らない相手を知る時間と捉えれば、少しは苦労も受け入れやすくなるはず。
家族はもちろん、それ以上に知るのが難しいのが自分自身。そこで大切なのが、自分との対話。つまり、孤独とは一人の時間ではなく、自分と対面する時間。その準備は50代とはいわず、もう子どものころからするべきと思います。
私自身、『家族という病』が世間に広く受け入れていただき、もともとの希望だった書くことの楽しさにやっとたどり着いたのが79歳でした。
そう思うと、50代で気付けた人は、本当にラッキーなんです。あきらめず、自分の意志をしっかり持ち続けて、残りの半生を存分にチャレンジしながら生きてください。