よく「辻さんとこの息子さんは幸せですね」と言われます。「あんなにおいしそうなお弁当やごはんを毎日食べることができるのだから」と。ありがたいお声ですが、私メ、言われるたびに顔では笑っておりますが、心は凍り付いているのです。離婚後、人一倍頑張ってきたことを自分自身よく知っているからです。息子に悲しい思いをさせたくないから、本当はやりたくもなかったお弁当作りを続けてきました。毎晩夕飯を作り続け、掃除洗濯もやってきました。でも、息子を不幸にさせたくない一心からやり続けてきたこと。誰かに「不幸よね」と言われたくなかったから頑張ったことを、誰よりも自分は知っているのです。だから、最近、ツイッターなどで「辻さんちの子供になりたい〜」とメッセージが来ると、凍り付いてしまうんです。本当の幸せってこんなに頑張ることではないですからね。ふつうに家族で暮らすこと自体が幸せなんです。私メがやっていることは幸せの演出なんですよ。そのことを自分自身よく知っていますから、幸せよね?と言われることで安堵しながらも、同時に、頑張らなきゃならない幸せにうんざりしてもいるわけです。
息子と2人きりの生活がはじまった直後、私たちは逃げるように引っ越しました。あれから2年半が経とうとしているんです。まだ荷物の整理はついていません。昔の幸せだった時代の写真とかが箱に投げ入れられたまま。早く整理し、捨てるものは捨てたいのだけど、時間がないのです。やっと最近、この幸せ演出作戦が安定してきましたので整理を始めようかと思ってはおりますが、精神衛生上あまりよくない(笑)。過去の遺物を見ると気が塞いでしまうのです。「辻さん頑張ったね、十君誰より幸せだよね」と言われるたびに、「それは違うんだよ」と心の中で叫んでいる自分がいるんです。やれやれ、まだまだ頑張らないとなりませんね。幸せの演出が、いつか本当の幸せに変化すると自分は信じています。
実際、だんだん、2人きりの人生も安定してきました。「パパ、ありがとう」とこの前、学校に行く前に言われましたよ。おべっかを使う子じゃないので、うれしかった。これが本当の幸せというものかもしれませんね。
さて、気分を変えて、奥様、今日はちょっと秋を感じさせる一品、塩漬け豚と栗の秋煮込みを一緒に作りませんか? 秋ですから栗がおいしい季節です。
材料:豚肩ロース300g、栗(市販の茹でた栗でOK。もちろん生栗を剥いてもOKです。生栗を使う場合、集荷後低温で4週間ほど貯蔵したものがベスト。糖度が3倍に)10粒、ポ
ルチーニ10個(もしくはエリンギ。エリンギの場合、ドライポルチーニ少量を戻し、戻し汁を利用します)、白ワインおよそ300ml、塩6g程度(お好みで)、にんにく一かけ、黒こしょう少々、小麦粉適量。豚の肩ロースを一口カツサイズにカットし、満遍なく塩を両面に振りかけ冷蔵庫にて3時間置く。
炒める
前に一度水で表面の塩を流し、キッチンペーパーで水分を拭いて、小麦粉を全面にまぶし、それから油を引いた深鍋で両面カリカリになるまで高温で炒めます(表面がきつね色になれば裏返しに。ここ大切です)。次に、軽く叩いて潰したにんにく一かけら、ポルチーニを投入し、火を通します。栗は崩れやすいので最後にさっと絡めるくらいでOK。黒こしょう少々(塩は振らない。十分しょっぱいので)。白ワインをひたひたになるまで投入し、弱火から中火で様子を見ながら、煮詰めていきます(エリンギでやる場合、乾燥ポルチーニの戻し汁をこのときにちょっと加えると香りが増します)。エキスにとろみが出て、煮詰まったら完成。パスタに絡めて食べてもおいしいですよ。秋を堪能する絶品煮込み料理、ワインのお供におすすめです。
ボナペティ!
エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!