日常で聞く機会も多い「漢方」。
でも、考えてみると漢方のことを全然知らない。
歴史は古く、2000年以上人間は漢方を利用してきた…
時代が変わってもそばにあり続けたお薬の謎に迫る。
人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!
風邪を引いたら、筋肉痛になったら、疲れを感じたら
「葛根湯」を飲む人は多いのではないだろうか?
あれは「漢方」と呼ばれる薬の一種だ。
といっても、漢方薬のことをどれくらい知っているだろう?
「初期に飲んでおくもの」「とりあえず飲んでおこう」といった
あいまいな万能薬イメージを持っていないだろうか。
わたしの家には常に葛根湯が常備してあって、
「熱を出したらお粥を食べる」くらいの気軽さで「風邪を引いたら葛根湯」だった。
本当にそんな気軽でいいのか!?本来持っている漢方のパワーを発揮できていないのではないか。
そもそも漢方って何ものなんだ??
謎に感じ始めたわたしは本気の漢方を知るべく
大阪・アメリカ村にある「心斎橋漢薬局」にお邪魔した。
そもそも漢方とは、
植物や動物、鉱物などからなる「生薬」を組み合わせたものを指す。
「生薬」には、誰もが知っている「生姜」、
みかんの皮を乾燥させた「陳皮」、
韓国料理と言えばの「朝鮮人参」などお馴染みのものから、
中には「こんなものまで…!?」と目を見張るようなものまでさまざま。
薬局の入口には驚きの品々が!!!
タツノオトシゴ…!
虎のホネ…!
巨大キノコ…!!!
薬剤師の松崎さんによると「ここにあるものはほとんど使わないです。飾りです」とのことだが、
これらを使う処方ももちろん存在する。
一番下の「黒芝(コクシ)」はガンに効くとされ、超高値で取引されることも…。
ありとあらゆる自然界のモノを使って
体の足りないものを補い、いらないものを排出する。
それが漢方なのだ。
松崎さんは「まだまだスゴイのありますよ」との言葉と共に、奥から箱を取り出してきた。
猿頭霜…?出てきたものにわたしは目を見張る。
さ、猿…!
この猿頭霜、名の通り猿の頭を黒焼きにしたものだと言う。
脳に効能があるとされ、なんとこれは処方に使われることも少なくないそうだ。
早速謎が深すぎるぞ漢方ワールド…!!!
漢方の起源は想像を絶するほど古い。
2000年前にまとめられた中国の「傷寒論」という本には、既に漢方についての記述がある。
「葛根湯」は、なんとその本に処方が記されているのだ。
葛根(くず湯の原料でもある葛の根っこ)
麻黄(植物の茎)
桂皮(シナモンの原料)
芍薬(「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」で有名な芍薬。生薬は根っこの部分)
生姜(おなじみの生姜。紀元前650年には食用とされていて、日本でも「古事記」に記述がある)
大棗(韓国料理などでお目にかかる機会が多い。赤く熟した実を干して使う。甘め。)
甘草(エキスを甘味料として使うこともある。根を乾燥させたものが生薬)
と、7つの植物からなる処方は当時から変わっていない。
2000年以上昔に生まれたものが今でも変わらず引き継がれている…!
それはテクノロジーがいくら進化しても人間自身は変わっていないということなのかもしれない…。
もともとは中国で皇帝のための医学だったものが民間にまで浸透し、平安時代ごろ日本にやってきたあとは日本でも研究がなされ、
今は日本の風土や体質に合わせた独自の漢方が出来上がりつつある。
「漢方は組み合わせのマジックなんです」と松崎さんは語った。
生薬をいくつも足し合わせて処方を作る漢方では
ひとつでも材料を減らすだけで効果が変わってきてしまうこともあるのだそうだ。
鼻水にはこの薬、咳にはこの薬…と足し算で薬を処方する西洋医学とは全く考え方が異なる。
また、体に現れている異変を治すだけではなく、
二度とその症状が現れない完全治癒を目指すのも漢方の特徴。
「以前、肌のブツブツを治してって言うてきた患者さんがいました。ブツブツだけなら小さな問題に思えますが、今ここでこの不調を治しておくことが10年、20年経って意味があるものになる」
何故ブツブツが出るのか?を探って、二度とブツブツが出ない体に変えてゆく。
体内に送り込まれた刺客…それが漢方…!
「体を治したい」という熱い想いを持って漢方と付き合うとき、そこには「とりあえず飲んどこう」では味わえない深い歴史や目には見えない活躍があるのだ。
「ダイエット」や「デトックス」「副作用なし」など甘い言葉で謳われがちだが決して魔法の薬やおまじないの類ではない。
人間が何千年も研究し続けた「治しきる」という医学なのである。
もし自分の体に何か起きたときの選択肢として覚えておきたい
人々の知識がそこにはあった。
『心斎橋漢薬局』
大阪市中央区西心斎橋1-10-7
http://www.shinsaibashi-kanpou.com/