(C)コナリミサト/秋田書店
『お笑い』→『海外ドラマ』→『マンガ』→『ラジオ』の4ジャンルを週替わりで、そのスペシャリストが“最推し番組”を指南する『今週の萌えガタリ』。今週は『マンガ』ということで、幼いころからマンガ好きな、歌人・小説家の加藤千恵さんが最推しマンガを紹介!
【最推しマンガ】『凪のお暇』コナリミサト著・秋田書店
最新巻となる3巻が刊行されたばかりの『凪のお暇』は、現在、かなりの注目を集めているマンガである。「人にぜひ薦めたいと思う作品」を基準に選出される「マンガ大賞2018」にもノミネートされているほどだ。
物語の主人公は、大島凪。28歳の会社員である彼女は、日々のささやかな節約を楽しみに、とにかく「空気を読む」ことを心がけている。
周囲に迷惑をかけないように、嫌われないようにしながら、人の分まで仕事をし、こっそり社内恋愛をしている恋人の慎二にも優しく接する。
しかしある日、彼女の張り詰めていた糸は切れる。コップにたまった水が溢れるみたいに限界を超えた彼女は、薄れゆく意識の中でこう悟る。
「空気は/読むもの/じゃなくて/吸って吐くものだ」
思いきり同意して、凪の背中を優しくさすりたくなるような、この真理。いつのまにか空気を読む、読もうとすることに慣れていた自分自身に突き刺さる。
凪は仕事を辞め、慎二と別れ、引っ越しをする。都心2LDKから、郊外の6畳1間。データだけで見たのなら、完全なる脱落だが、彼女の表情は、以前よりもずっと明るくてすがすがしい。必死に毎朝ストレートにしていた髪も、天然の強いくせ毛のままとなり、それもまた似合う。
しかし、さまざまなしがらみから解放されて幸せになりました、で終わるわけではない。毎日は続いていくのだ。わざわざ住所を調べて会いに来た慎二や、自称イベントオーガナイザーの隣人ゴンちゃんとの色恋を巡る人間関係。逆隣に住むクールな小学生のうららちゃんとの不思議な友情。減っていく預金残高。
毎日のように凪の悩みは生まれて、感情は渦巻く。
最新巻ではさらに、遠く離れて暮らす母との関係もそこに加わる上に、ラストでは慎二とゴンちゃんの直接対決などもあり、ますます目が離せない展開となっている。
一時かもしれないけれど、自由が与えられたとき、どんなふうに過ごしていくのが正解なのか。凪の姿を見つめながら、自分だったら、とつい考えてしまう。
とはいえ、終始暗いトーンなのかというと、まったくそんなことはなく、一篇ずつは短いページ数となっていることもあり、サクサクと読み進んでいける。
また、節約家の凪ならではという感じで、時には具体的な節約レシピも紹介されていたりする。2巻の土鍋プリンや、3巻のイワシのフリッターなど、簡単かつ、明日にでも作って試したくなるものばかりだ。レシピ以外にも、風呂敷の変わった包み方やレジ袋を使ったエクササイズなども紹介されていて、高い実用性も兼ね備えたマンガとなっている。
空気を読むことに疲れてしまっている人に、ぜひ読んでみてもらいたい。