「私が前よりふっくらしているので『仮病なんじゃないの?』と思われる方もいるようで、その釈明を(笑)」
6月3日の記者会見、闘病の経緯を“明るい笑顔”で語ったのはピアニストの中村紘子さん(70)。新たな大腸がん治療のため、演奏活動を休止したのは今年2月だった。ところが3月上旬、早くも活動を再開し、この会見に。確かに目の前の中村さんの肌はつややか。大腸がん(ステージ2)に体を侵されている悲壮感などみじんも感じさせない。
本誌はその“驚異の回復力”の秘密を知りたいと、今回単独インタビューをお願いした。
「とにかく私は、元気であるということが取柄で70年近く過ごしてきましたから、昨年2月にがんが見つかったときには、さすがに困惑しました。まず抗がん剤治療を始めたんですが、何度かやっているうちに、私の体がガタガタになってしまいまして……」
昨年7月、横浜でのベートーベン演奏をキャンセル。あわてて民間療法に切り替えた。食事療法、ラジウム岩盤浴療法などいろいろ試したが、完治にはいたらない。そして昨年末、ある免疫療法を受けたとき、体に雑菌が入り、全身に激痛が走った。何とかしなければと、がん研有明病院に駆け込むと、現在の主治医に「抗がん剤治療をしなさい。あなたが私の身内だったとしてもそう言います」と言われ、覚悟して再び抗がん剤治療に挑んだが……。
「有明の抗がん剤はあの“辛い、苦しい”がまったくなかったんです。抗がん剤の前に副作用を止める点滴をします。これに約4時間半もかかりますが、点滴のおかげで、抗がん剤は痛くもかゆくもなくなるんです。本当に自覚症状ゼロ!この2泊3日の入院治療を4度行いました」
これが最新のがん治療なのかと、あらためて現代医学の進歩に驚嘆した。さらに西洋医学と漢方のよいところを両方取り入れる治療方法が用いられた。とはいえ、がん細胞がなくなったわけではない。
「抗がん剤治療を始めて2週間目くらいから、頭髪が抜け始めました。やっぱり最初はショックでした……。でも、私はハラハラと抜け落ちてゆくのを待つのも癪(しゃく)なので、自分から“丸刈り”にしちゃった。そうしたら、ウィッグって毎日がラクなのよね!今は面白がっていろんな種類を試してる(笑)」
この潔さ!がんと笑って過ごすための決断は早かった。
「髪の毛があると、ネットをかぶらなければならないので大変。でも丸刈りならラクチン(笑)。こういうことも、気の持ちようで違うんです」
なんといっても中村さんにはピアノがある。闘病の間も午前、午後、夜と1日5〜7時間の練習は欠かさない。
「ピアニストはね、一種の“万年受験生”みたいなものなんです。今日、とてつもない名演奏ができたとしても、それを1週間後に再現できるかどうかはわかりません。1週間も弾かなければ、すぐに筋肉がダメになりますから。演奏の舞台はいわば“結果”。毎日の練習の結果なんです。そうやって私はずっと『今日より明日のほうがいいに決まってる!』という気持ちで弾いてきました。何事も同じです。『今日はイヤなことがあった』と感じても、『明日のほうがいいに決まってる』と思えばいい。真面目に努力すれば、明日はいいことがあると信じる。だから楽天的なのかも(笑)」
主治医も演奏の仕事を続けることに賛成している。
「『治療に専念して』と言われようものなら、『どうしてよ!』と激しく闘っちゃいますね。ただ、私の主治医は『月に1度は演奏会をしてください』と言ってくれました(笑)。いつも風邪で薬をもらいにきた患者のように接してくださる」
中村紘子さんが語った、がんとの上手な付き合い方。それは、きっと同じ病気と闘う人を元気にする“励ましのメロディ”となるに違いない。