「個人的にはお話ししたいのですが、匿名でも取材をお受けできません」(キー局の女性記者)
「申し訳ないのですが、今回はお断りさせてください……」(全国紙の女性記者)
大手メディアで働く女性記者たちは、世間を騒がせている“セクハラ告発”にこぞって口をつぐんだ――。
財務省の福田淳一事務次官(58)による女性記者への“セクハラ疑惑”が4月12日発売号の『週刊新潮』で報じられ、大きな波紋を呼んでいる。記事では、女性記者が福田次官から「胸触っていい?」「手しばっていい?」などのセクハラ発言をされていたと告発。その音源も公開された。
だが4日後の4月16日、福田次官は記事の内容を全面否定。財務省は告発した女性記者に名乗り出るよう、異例の要請を出した。18日には福田次官の辞任が発表されたものの、その後も潔白を主張している。
翌19日にはテレビ朝日が緊急の記者会見を開き、自社の女性記者が福田次官からセクハラ被害を受けていたと発表。女性記者が上司に「セクハラ被害を報道してほしい」と訴えたが却下され、『週刊新潮』に情報提供していたことも認めた。
テレ朝の会見当日、厳しい政権批判で知られる中日新聞社の望月衣塑子記者(43)が自身のツイッターを更新。そこで彼女は、女性記者の訴えを“もみ消した”上司もまた、女性だったと明かしたのだ。
《福田次官のセクハラ被害を訴えたテレ朝記者の上司は、私が最も尊敬する女性だ。訴えた記者も信頼を寄せている。その上司がなぜ「記事は出せない」と言ったのか。(中略)これまでの会社の行動からすれば、逆に潰される可能性が高いと判断したという》
全国紙の政治担当デスクもこう同調する。
「“最強官庁”とも言われる財務省を敵に回してしまっては、今後の取材活動に大きなダメージを受けてしまいます。次官のセクハラを告発しても社の上層部が認めるはずがないと忖度”した。その結果として“もみ消す”形になってしまったのでしょう」
自分が働くテレビ局と財務省――。2つの権力の板挟みになり、沈黙せざるをえない女性記者たち。騒動渦中、男性政治家による“暴言”も飛び交った。麻生太郎財務相(77)「嫌なら男の記者に替えればいい。ネタをもらえるかもと思ってついていったんだろ」と発言したと一部で報じられた。
だが、女性記者たちは逃げたくともそれが許されない“異常な環境”に置かれてきたのだ――。あるテレビ局の女性記者は、本誌の取材に重い口を開く。
「セクハラされてもキッパリ断れる強い女性もいますが、なにぶんこちらが欲しい情報を持っている相手なので、記者の立場は圧倒的に弱い。ですから職務上、黙って耐えるしかないのが現実です」
元毎日新聞記者の上谷さくら弁護士は、自身の記者経験を踏まえてこう語る。
「今回のケースが珍しいのは、女性記者がセクハラを告発したこと。もし上司に『担当を変えて』と言っていたら、これほどの騒動にはならなかったかもしれません。というのも、配置転換だけであれば対応できたはずなのです。でもこの女性記者は『報道したい』と訴えました。それはイコール、記者生命が絶たれるかもしれないということ。仕事を失う覚悟で『報じなければ』と判断したのは、記者としての正義感を貫きたかったからかもしれませんし、泣き寝入りしないことで自分の尊厳を守りたかったのかもしれません」
外ではセクハラをされ、会社にも守ってもらえない。財務省とテレ朝は、まるで“共犯”ではないか――。冒頭のように大手メディアの女性たちが口をつぐんだのは、告発してもこうした“男社会の悪癖”が治らないどころか、自らの不利益のほうが大きいからに他ならない。
「勇気ある女性記者が告発したことは、よくぞやってくれたと共感しました。ただ……今後、男性の取材対象者には1対1での取材を受けてもらえなくなるかもしれないと、うちの女性記者はみんな戦々恐々としています」(テレビ局記者)
安倍政権が掲げた“女性が輝く社会”を目指すなら、セクハラにも負けず必死で働いている女性たちの悲鳴をしっかり受け止めてほしい――。